くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「首」

首

紛れもない傑作である。90分あまりという人間の集中力の限界を最大限に緊張させてくれ、見終わった後、ほっとした解放感と何ともいえない充実感に満たされる。たった一つの真実に向かって邁進していく正木弁護士の姿が鬼気迫る小林桂樹の演技で見事に表現されていく様は絶品と呼べる。

森谷司郎監督の演出の迫力も画面から直接投げかけてくるような迫力がある。
吹雪の吹きすさぶ景色を効果的に使った主人公の心の描写、ふとほっとする瞬間を演出する暖かい鍋料理の風景、そして汽車のなかで警官に荷物を問いただされ緊張の極限で挿入される首切り人のとっさの機転によるサスペンスフルな展開。駅をでたところですんでのところで首切り人の判断ですでに持ち出してあった首が見つからずにすむというスリリングな展開など卓越したプロットの数々がこの重厚な作品にかすかな娯楽性をにおわせる効果を生みだしている。
まったく、脱帽してしまううまさである。すばらしい作品でした。

映画が始まると一人の男が吹雪の中、仮埋葬された墓の前でにらんでいる。彼がこの映画の主人公正木弁護士(小林桂樹)である。そして画面が変わると一人の男が警察の尋問にあい逆上した警官の殴りかかるショットが続きタイトルシーンとなる。

物語は一人の弁護士が、一人の炭坑夫が警察で変死した事件を担当することになり、今まで正義と信じていた検事局への不信から、次第に狂気的に真相を暴くべく奔走する話である。

変死した死体の解剖を申請するも適当に処理されたことに怒りを抱き、再調査のために奔走するも遅々として進まず、次第に腐敗が進むという心配から首を切り落として直接観察医にに持ち込むため犯罪すれすれの作業を行う。
いかにして誰にも気付かれず埋葬された死体から首を切り落とすか?腐敗する前に実行するという時間との戦いと、犯罪を犯していることへの不安とスリル。それらが息詰まるサスペンスで展開していきます。
気楽に処理しようとした冒頭のシーンから次第に焦りと憤りが入り交じった鬼気迫る形相へと変化していく正木弁護士の姿が見応え十分。
ラストシーン、危険を冒して首を法医学教授の下に運び、そこで総てが明らかになる。そして保管された首が空襲で燃えていくエンディングまで一気に引き込まれます。

実話に基づく原作を橋本忍が見事に脚本に仕上げ、さらに小林桂樹が狂気的になっていく主人公を見事に演じる、さらに森谷司郎が重厚な演出で見せる。三拍子そろったまさに傑作でした。