くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ルイーサ」「レオニー」

ルイーサ

「ルイーサ」
ダイナミックなカメラアングルと風景描写、さらにテクニカルな映像を駆使して描かれた一人の老婦人の奮闘記という映画でした。非常に独創的なショットが繰り返されるのがなんと言っても見事で、その切り返しのおもしろさがこの映画の見所でもあります。とはいえ、突然解雇され、貧乏のどん底に落ちた主人公ルイーサの奮闘する目的が結局猫の火葬資金というのがちょっと細すぎるストリーの結末だったような気がしなくもないですが。

映画が始まるとベッドの壁に映る主人公ルイーサの姿。目覚ましよりも咲に愛猫のティノがベッドに駆け上ってくる。目覚まし代わりのこの猫をことのほかかわいがりながら、起きたルイーサはきっちりと決められた仕草で服を着替え髪を整えスーツを着込んでまだ明るくない早朝の町へ出る。いつものマンションの管理人に挨拶をし、いつものバスに乗り、まず今は亡き夫と子供の墓に花を置いて事務所へ。彼女は霊園の管理人である。そして一日が終わるとそのまま親しい舞台女優のマンションの留守番の仕事へ。こうやって一日が終わる様子が真正面からとらえた静かなショットかと思うと、突然の斜めの構図に変わったりという演出で語られる。

そして翌日、いつものように昔の悪夢の後目覚めると、毎朝起こしに来るティノがいない。台所へ行くとティノが死んでいるのを見つける。あわてて箱に入れ、仕事場へ。ところが、システムを変えるとかで霊園の仕事をその場で解雇され、帰りに寄ったいつもの舞台女優のマンションでも、もう引退するから留守番の仕事はもういいと告げられる。帰って猫の埋葬の会社に電話するも火葬するにはお金がかかることを告げられ、仕方なく死体を冷蔵庫へ。

こうして、ルイーサの奮闘劇が始まるが、時に手持ちカメラのような不安定な画面が映されるかと思うと、ストロボショットのような画面を繰り返される。突然、傾いた構図で不安定な心の様子が演出されたりする。この演出が物語にダイナミックなリズムを呼び起こしてきます。

今まで、地下鉄にさえ乗ったことのないルイーサは訳もわからないままに、地下鉄の中でインチキまがいのカード売りなどするも売れるわけもなく、足の悪い振りをして物乞いを始める。そんなとき知り合った同業のじいさんと親しくなる。
そんなおり、いつも挨拶する管理人の若者にルイーサの今の状態がばれ、結局、猫を金持ちの舞台女優のマンションの屋上の焼却炉で焼くことにして一件落着。もう少しこのルイーサの生き方の奮闘記としておもしろおかしく描いていたらもっと楽しかったかもしれないのにとちょっと残念でしたが、まぁ、猫の埋葬資金だけという結末の茶目っ気もそれはそれで良かったのかもしれません。小品ですが楽しい映画でした



「レオニー」
彫刻家でデザイナーでもあったイサム・ノグチの母レオニーの半生を描いた物語です。
非常に丁寧な画面作りで、日本の景色のショットも美しく、一つ一つの展開もしっかりと演出されていて、2時間以上あるにもかかわらず退屈せずに見ることができました。しかも主人公を取り囲む人物たちもさりげなくいい人たちばかりで、芸達者な俳優さんの参加で出しゃばらず、しっかりサポートした演技が好感の一本でした。

物語は実話を元にしているので、語るまでもないのですが、晩年のイサム・ノグチが彫像を彫っているショット、レオニーが夫となる男ヨネとの出会いの場面、イサム・ノグチを生む場面と、三つの時間を交互に描きながら前半の物語が語られます。
そして、物語はヨネが日本へ帰り、一人になったレオニーの姿を描くあたりから一本のストーリーへと続いていきます。

やがて日本へと旅立つレオニーとイサム。日本でヨネに迎えられ暮らし始めるあたりのシーンが実に日本の景色を美しくとらえた永田鉄男のカメラが素晴らしい。しかもセットの一つ一つが実に素朴ながら存在感のある作りになっているから物語に充実感を与えてきます。さりげなく正面にカメラがとらえるショットが多いですが、画面の中に映される自然の姿や昔の建物の様子が大きくとらえられ、そこで繰り広げられるレオニーの波乱の物語をさりげなく演出する画面が見事です。

レオニーに関わってくる人たちもそうですが、結局、一見悪者のごとく見えるヨネも当時の日本男性としては当然の姿であり、裏からしっかり援助している様子が暗に感じられる演出が物語に厚みをもたらしてきます。

やがて成人したイサムが医学方面をあきらめて芸術家の道へ進み認められたところを描くあたりは少々荒い脚本になっていますが、全体に、緻密で繊細な演出がなされているためにその程度の粗は目をつむれる余裕ができるエンディングでした。手放しで傑作と呼ぶほどでもありませんが、良い映画だったと思います