くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ユリシーズの瞳」

ユリシーズの瞳

決して娯楽映画とは呼べない。テオ・アンゲロプスならではの長回しによるロングショットの連続と重厚な画面づくりの3時間足らずはさすがにしんどいというのが正直なところである。しかし、作品は群を抜いたハイレベルの完成度にはうならされる。

モノクロームの古いフィルムが画面を覆って映画が始まる。このフィルムの監督マナキス兄弟の最初の作品とされるが実は現像されていない3巻のフィルムが存在するということが知られているというナレーション。

海に浮かぶ青い船を撮影するためにカメラをのぞくマナキス兄弟の兄、その助監督の主人公私がその兄がその場で倒れるところからタイトルバック。これだけでただ者の作品でないと感じてしまう。

ギリシャに帰ってきた映画監督の私はそこで市民の反対やデモ運動に直面、そんな中で幻のフィルムを求めてアルバニアルーマニア、そして最後にサラエボにたどり着くという旅の物語である。

時に時間や空間が前後し、ジャンプし、私の両親の姿やパーティシーンで1945年から1950年まで流れていくという夢のシーンや列車の中で出会った女性とのシュールな恋物語、さらに途中の駅で拉致されて解放されるという私とマナキス兄弟とのオーバーラップした演出などしっかりみていないとついていけない部分も多々ある。

さらに真っ白な雪景色の美しさ、サラエボアルバニアの町並みを重厚感あふれる構図でとらえて人々を配置する演出、巨大な石像が船で運ばれていくショット、クライマックスの霧の中での殺戮シーンの不気味さなど並外れた感性で描かれる映像は実に充実感にあふれているのです。

そして、発見されたフィルムの現像が完成したのかどうか、真っ白な画面をじっと見る私の姿から暗転エンディング。

途中、何度か意識がなくなったがかろうじて短時間にとどめたので物語は混乱しなかった。とはいえ、交錯する空間と時間、さらに人物が絡んで結局一度みただけでは理解し切れなかったと思う。それでもハイレベルな一本を見たという充実感の中で劇場をでることができました。まったく、解説の通り偉大なる映像詩という言葉がぴったりの映画でした。