くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「国境の町」「騎手物語」

国境の町

「国境の町」
ボリス・バルネット特集の一本で、解説によると彼の代表作らしい。

先日見た二本のような叙情的な画面というよりサイレント映画の演出スタイルが残る映像で物語を語るという手法が徹底されている。その演出スタイルゆえか突拍子もないようなジャンプカットや編集が施され、時にコミカルにさえ見えるシーンもないわけではないし、背後に執拗に流れるロシア的な音楽も独特のムードを生み出している。

その意味で非常に独創性がある上に、ボリス・バネットの演出手腕を見せつけられる作品で、彼の力量が遺憾なく発揮されたように思える作品でした。

ただ、いかんせんフィルムの保存状態が悪く、いたんでいるならまだしも、ブラックフィルムでつないでしまったいわゆる紛失したらしい部分も終盤にたくさん見られたのが残念。

映画がはじまると、国境の町の水たまりが映し出され、町の建物が写っている。そしてそこに鴨が戯れて物語が始まる。靴屋のシーンが続き、やがて何かの音楽が聞こえる。外へ飛び出す職人たち、そして起こるストライキ。やがて戦争が勃発し、靴屋の息子ニコライも戦争にいく。

一方ドイツとの国境になるこの町には捕虜も収容され、その中の一人ドイツ人のミューラーと靴屋の娘の淡い恋なども描かれるが、住民たちの息子の訃報が届くと袋叩きになってしまったりする。

時は1914年から1918年へ。終わりの見えない戦争の末にとうとう労働者の革命が勃発。ロシア皇帝の退位へと時が流れていく。突然、兵士たちが飛び上がるショットを下からとらえる戦闘シーンや、機関銃のアップ、次々と被さってくる爆弾の土煙などダイナミックな映像も挿入され、物語は終盤へ。

戦争に嫌気がさしてきたロシア人、しかし対するドイツ人も嫌気がさしてきていた。国境でニコライの行動から両者はよりそい、ばかげた戦闘を辞めてしまうが、ソビエト臨時政府はそれを許さずニコライは射殺されてしまう。

なにもかもばかげた戦争のなせる結果といわんばかりの反戦思想が訴えられ、靴屋の主人は娘と碁をうとうとするが、それも娘に邪険にされる。

町の全景をじっと見据えて、エンディング。余韻の残るラストシーンはなかなかの見応えを感じさせてくれます。代表作というだけあって、その豪快な演出、個性的なアングルなどこの監督の個性と才能が見え隠れする秀作だった気がします。

「騎手物語」
老いた競馬の騎手トロフィーモフの物語。競馬といっても馬に乗ってと言うのではなく馬の後ろに一人乗りの馬車をつないで駆け抜けると言うもので、冒頭の延々と競馬シーンをとらえる長大といえる移動撮影のカメラがものすごい臨場感で、この後ラストシーンにも登場するがまさに国営映画の潤沢な資金のなせるわざと言うところです。

このトロフィーモフが結婚をすることにし孫娘マリアを呼ぶ。こうして田舎から都会にやってきたマリアと祖父の物語がコミカルにユーモアあふれるシーンを交えてほのぼのと描かれていく。

ソ連映画のコメディというのもそうお目にかかっていませんが、軽快なプロットの数々が本当に楽しい。ただ、全体のストーリーはあっちへ飛んだりこっちへ飛んだりとどこか即興に近いほどの展開を見せ、必要か不必要かはそっちのけの物語構成もいつの間にか最後になってまとまってくるという出来上がりは肩が凝らない娯楽映画として十分に楽しめるのです。

マリアが初めて競馬場へきたときの二人組の客とのやりとりややたら車の事故ばかり起こす女医さん、トロフィーモフのライバルの老年の騎手との駆け引き、さらにマリアに想いを寄せる若者などふんだんにそろえた登場人物のバラエティがとっても豪華で楽しい。しかも、最初にも書きましたが競馬シーンの迫力、あるいは牧歌的な美しい景色のショットなども交え、てんこ盛りのエンターテインメントとして楽しめる作品に仕上がっています。

ラストは、たまたま見つけた才能ある馬をトロフィーモフが育て上げライバルの騎手に対戦させて競馬場で優勝してハッピーエンド。

笑いあり、笑いあり、笑いありとどこまでも陽気に描いていく娯楽の固まりという楽しい一本でした。