くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「みかへりの塔」「歌女おぼえ書」

みかへりの塔

「みかへりの塔」
山村にある、様々な行動に問題のある、少年少女を収容し、矯正させている施設を舞台にした群像劇であるが、その登場人物の生き生きとした姿がすばらしい一本でした。

田園の中にそびえる建物や、子供たちがかける姿、田圃で作業する様子などを俯瞰で大きくとらえ、ゆっくりと左右に移動していくカメラワークの美しさに引き込まれる。

物語は、この施設の一人の先生が父兄を案内して、この施設の姿を説明し回っているシーンから始まる。そして、主要な施設の子供たちの物語を中心に、やがてクライマックスとなる、山の上の池から水を引く水路をみんなで掘るシーンまで、子供たちが水をくむシーンや、呼び笛のように伝達するシーンをテンポよく挿入し、絶妙のリズムを生み出す手腕がすばらしい。

ラストは、主要人物が卒園していくシーンとなり、この施設の見かえりの塔にある鐘をならしてエンディング。ちょっと、日本の戦意高揚であるように思えなくもないけれども、しっかりと描かれた人物の描写や、ドラマティックな展開の見事さは絶品の一本でした。


「歌女おぼえ書」
これは傑作でした。屋外で横にパンするカメラワークと、室内のフィックスで日本家屋の廊下の奥行きや、広い間を平坦にとらえたカメラの繰り返しが実に美しく、人物を遠景でとらえるショットに、クローズアップなども繰り返して、ドラマ性も加えていく。そのテンポのうまさは、清水宏の職人技といえる。

映画は、森の中、旅芸人の男たちと道行きをともにする一人の女芸人歌女。そのシーンがゆっくりとしたカメラで、とらえていく。そしてとある宿場に入っていくが、たまたまそこに泊まっていた信州のお茶問屋の主人に一芸を見せたことから、旅芸人たちがじゃまにし始めた歌女を、条件なしに問屋の主人が引き取ることになる。

こうして舞台は、信州のお茶問屋での、お歌の生活が物語の中心になる。世間のさげすみの声の中、やがて主人が病死、東京にいた長男の庄太郎がもどってくる。

商売はいったん休むが、もう一度大学へ行かせるために弟と妹をあずかり、お歌の苦労話が展開する。

広い土間のカットや、廊下の奥に人物を配して、区切れた構図で見せる奥行きのあるカット、お歌が学校へ弟を送っていくときの、道の端から俯瞰で向こうを望むようなアングルで移動するカメラなどなど、見事なシーンが次々と展開する。

オリジナルストーリー故の若干のだるみが終盤にみられるものの、テクニックの美しさに魅了される映画である。

降ってわいた外国商人の注文から、店が盛り返し、やがて庄太郎が卒業して戻ってくる日、かつての旅芸人の男がお歌に金の無心にきたために、自ら身を引いて再び旅芸人になるお歌。しかし、その行方を突き止めた庄太郎と晴れて結婚をしてハッピーエンド暗転である。

本当に、すばらしい一本で、清水宏の才能を見せつけられる映画でした。