「鯨神」
流石に新藤兼人の脚本は原作を見事に深みのある人間ドラマに仕上げています。スペクタクルな鯨神との死闘シーンをハイライトに描かれる人と人の生き様は圧倒されました。監督は田中徳三。
沖合に毎年現れる巨大な鯨を、地元の漁師達は鯨神と呼んでいた。主人公シャキの祖父が鯨神に臨み海に投げ出される場面から映画は始まり、さらにその父もまた鯨神に殺されてしまう。地元の鯨名主は、自分の娘トヨと名跡を全て与えることと引き換えに鯨神を撃つことを命じる。
シャキは恋人のエイがいたが鯨神を討つことに名乗りをあげる。ここに紀州からやってきて紀州という呼び名でこの村に来た鯨撃ちがいる。彼はエイを手込めにして孕ませてしまう。次に鯨神がやってきる春までに、エイは赤ん坊を産むが、シャキはその子供を自分の子だと言ってエイと結婚する。
やがて鯨神がやってくる。シャキと紀州も船に乗り込み鯨神に臨む。紀州は、自ら先陣で飛び移り鯨神の急所にモリを刺す。続いてシャキも飛び乗り、最後のトドメをさすが、紀州が命と引き換えにしたモリのせいでやがて鯨神は討ち取られたが、シャキも全身の重傷を負う。
鯨神がは浜で解体され、シャキは瀕死の体でそこへ連れていくように鯨名主に頼み、対峙して死んでいく。ドラマ生もすごいが、鯨神との死闘シーンの特撮も見事で、やはり特撮は技術ではなく演出力だと改めて実感しました。
「ひき裂かれた盛装」
よくある女の復讐劇ですが、人間関係が見事に絡み合っていく展開が実に面白くて全然飽きてこない。素直に楽しめるサスペンスノワールでした。監督は田中徳三。
一人の男佐倉が、土地取引のゆすりに乗り込むところから映画は始まる。その取引に絡む一人の女秋原の存在から彼女のバックにいる新興の土地開発業者納谷の存在を知る。佐倉は、秋原に取り入るとともに納谷からの儲けを考えはじめる。
そんな頃、佐倉は一人の女倫子と知り合う。遊びまわるお嬢さん肌の倫子だが、実は納谷の一人娘だった。しかし次第に佐倉は倫子を愛し始める。そんな頃、納谷はチンケな鈴木というゆすり屋に脅されるが、返り討ちにしてやろうとしたところ逆に返り討ちになる。なんと鈴木のバックには秋原がいた。実は、秋原は様々な手段で詐欺やゆすりで金を儲けながらレストランを経営し、納谷の愛人でもあったのだ。
秋原は佐倉を巻き込み、納谷が四国で巨大な土地取引をすることを知り、佐倉は横槍を入れて土地を奪取、さらに秋原は納谷を脅して、納谷が手に入れた土地を手に入れる。秋原は六年前に納谷に潰された会社の娘で、納谷に復讐していたのだ。納谷は手を回して政府に開発地の場所を変えさせ、佐倉らを破綻させる。しかし納谷は交通事故で死んでしまう。
一方で、佐倉も納谷が最後に送った刺客に刺されるが一命を取り留める。行方不明になっていた倫子が戻り、佐倉を見舞う。秋原は元の生活に戻り、レストランを切り盛りしていた。
なかなかしっかり組み立て構成された作品で、下手に作るとただの二時間サスペンスになるところをしっかり映画として仕上げているのは流石に面白かった。
「脂のしたたり」
ありきたりのサスペンスですが、この時代の作品は役者の層も厚いし、演出も演技もしっかりしてるので少々お話が陳腐でも楽しめました。監督は田中徳三。
証券会社の調査員の仲田は、その日一人の女性が地味な農機具の会社の株を大量に買いにきたことに不信を抱く。彼女の名前は名和雪子と言って、香港の中国人に養われていた。仲田は一儲けしようと、元愛人の情夫でもある情報屋の風間と組んで、農機具会社の株の真相を探り始めるが、桂という不気味な男がうろつき始める。さらに風間の愛人敏子は風間がマネージャーをしているクラブで働いていた。
調査を進めるうちに、雪子の養親の中国人らが農機具の会社を乗っ取り、武器製造を始めるらしいというのがわかってくる。仲田らの周りにも危険が迫り、風間は殺され、農機具会社の証券担当課長も殺され、とうとう敏子もころされてしまう。
仲田は雪子の手引きで桂たちを誘き寄せる。桂たちは戦時中雪子の両親を殺した男たちだった。そして、雪子は復讐を遂げ自殺してしまう。仲田は会社をクビになり、また戻ってくると同僚に告げて去って映画は終わる。まあ、普通のサスペンスですが、それなりに楽しめるのはやはり層の熱い役者陣の面白さでしょうね。