くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「映画はアリスから始まった」「御法度」

「映画はアリスから始まった」

ハリウッド映画制作システムの原型を作った世界初の女性監督アリス・ギイの生涯を語るドキュメンタリー。わずか120年ほどの映画の歴史でさえも、正しい部分が葬り去られている現実を見ました。スピーディでテンポ良く展開するドキュメンタリーで、正直ついていくのが大変でしたが、かなり面白かった。今まで知っていた様々の映画の知識の一部に誤りがあることが見えてくる。監督はパメラ・B・グリーン。

 

1895年12月28日、リュミエール兄弟のシネマトグラフの上映会、副社長のゴーモンの秘書としてその場にいたのがアリス・ギイだった。こうして映画は始まります。ゴーモン社の初期の映画作品のほとんどを監督し、その数1000本近くになる。クローズアップやフィルムの着色、映画制作の流れなどハリウッド映画システムの基本を作り上げていき、単なる記録媒体としての映画を物語を描く手段に昇華した貢献者です。

 

にも関わらず、世界の著名な映画研究者も映画学校でさえも彼女の存在を知らない人が多く、その功績さえもわからない。しかも、研究書の中には彼女の作品にも関わらず別人の名前が記載されたまま現代に至っている。その原因はなぜかと言うのを問い詰めていくのが映画の流れになります。

 

なぜ彼女の姿が表立って存在しなかったか。第一次大戦前ゆえ、さらに映画の技術がまだまだ未熟であったゆえ、さらに女性であったゆえ、さまざまな理由からアリス・ギイという存在は埋もれてしまった。世界中に散逸した彼女のフィルムをかき集め、様々な資料を探し出して彼女の存在を証明していく過程は実に興味深い流れでした。映画ファンとしては必見の一本だったかもしれません。

 

「御法度」

24年ぶりくらいの再見でしたが、これほどまでの傑作だとは当時見分ける目はなかったみたいです。長回しを多用した流麗なカメラワークと西岡善信の美しい美術、そして、当時まだ珍しかった男色をテーマにした斬新なストーリー展開、さらに奇抜すぎる配役を使いこなす演出力、坂本龍一の音楽、ワダエミの衣装とのマッチング、素晴らしいものを久しぶりに見ました。傑作。監督は大島渚

 

新撰組の道場で沖田総司が、入隊希望の加納と田代の技量を測って立ち回りをしている場面から映画は幕を開ける。この冒頭の殺陣シーンが素晴らしいので一気に引き込まれます。見聞している近藤、土方の立ち位置と妖艶なほど美形すぎる加納の姿との対峙もうまい。

 

入隊を許された加納と田代だが、田代は早速加納に迫っていく。男色をテーマにしているとはいえいきなりのストレートな展開に一瞬身を引くのですが、次第にこの作品の独特の空気感に毒されていきます。いつまでも前髪を下ろさず幼い姿のまま美剣士を演じる加納に、新撰組隊士らから好奇の目が注がれていく様が、さりげないセリフや字幕、仕草で画面から匂い出てくる息苦しさが、次第にサスペンスとなって、誰が本気で加納と付き合っているのか、誰が気持ちを寄せているのかと物語を追っていきます。

 

加納に迫っていた須崎という隊士が殺される事件が起こり、さらに監察の隊士が襲われる事件が勃発、その時の証拠品から田代が疑われ、近藤は加納に田代を斬れと命ずる。介添として見つめる土方と沖田、沖田が語る雨月物語の一節、土方が見る加納に迫ってくる様々な隊士の幻影など、クライマックスのセット撮影も素晴らしい。やがて、加納と田代の斬り合いが始まり、田代に剣を飛ばされた加納は何やらつぶやく。その言葉で田代が剣を緩めた隙に加納が脇差で切り結んで田代を倒す。

 

去っていく加納を見送る土方と沖田。沖田は用を思い出したと引き返し、一人残った土方は、その美形ゆえに化け物に変貌してしまった加納を思って、その場に咲き誇る桜を一刀両断にし映画は終わります。

 

全く見事な映画でした。まさに大島渚の美学が結集した傑作でした。