くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「男女残酷物語/サソリ決戦」「情熱の王国」

「男女残酷物語/サソリ決戦」セイヤー、メアリー

今まで公開されていないのが不思議なくらい面白い映画だった。映像アートの如く淡々と進む前半部分が中盤から後半にかけてテンポが速くなってサスペンスフルな展開に変化して行くリズム転換がとっても面白い。メアリーのテーマ曲で締めくくるラストはまさにピカレスクロマンである。全体を覆うアートな背景や構図、シュールでサイケデリックなシーンの数々、そして謎が謎を読んで物語が変化して行く様はなかなかのエンタメ感満載。やたらSM色を前面に出した宣伝フォルムが明らかに失敗だが、あえて、この映画の面白さを隠した点では大成功だったかもしれない。楽しい映画だった。監督はピエロ・スキバザッパ。

 

一台の車の中、太ももの傷に薬を塗る女性、傍に男性がいて、どうやらSMプレイをしての帰りらしく、男は女に小切手を手渡す。女は男の車を降りて、自分の車のそばに停まっている、真っ白なロールロイスの車に乗り込んで走り去って映画は幕を開ける。

 

大勢の男たちがポップで巨大なホンのオブジェに入って行ってタイトルで映画は幕を開ける。慈善団体の巨大なアート施設の一角、片目を真っ黒にした一人の男が銅像に貼られているロゴを引き剥がす。そしてこの施設の長であるセイヤーの執務室にやってくるが、セイヤーは片目の男を解雇する。セイヤーに電話が入り、次の金曜日は体調が良くないのでキャンセルしたいと女から電話が入る。どうやら冒頭のSMプレイの女らしくプロのようである。セイヤーは、ジャーナリストのメアリーを気を失わせて自身のベンツに乗せ何処かへ走り去る。そしてついたのは巨大なSMプレイを楽しむ建物だった。

 

メアリーは、セイヤーから、人形とSEXを強要されたり、水責めされたり、様々な女性の写真や殺される悲鳴などを聞かされたりし、時に手錠で拘束されたりする。しかし、メアリーは、次第に自分にのめり込んでいくセイヤーを操り始める。そして、自ら薬を飲んで自殺未遂を起こしセイヤーを慌てさせる。セイヤーはメアリーの髪の毛を切り、ショートカットにしてしまうが、いつの間にかセイヤーはメアリーの魅力に惹かれていることを感じ始める。

 

セイヤーとメアリーは建物を出て、オープンカーで草原を走り、花畑を駆け巡り、森を走り抜けるが、鍛えているはずのセイヤーはクタクタになってメアリーに跪いてしまう。そんなセイヤーをメアリーは嘲笑うように弄び始める。古い城のレストランへ行き食事をし、セイヤーはメアリーの体を求めるがすんでのところでメアリーはセイヤーを許さなかった。

 

セイヤーはホンのオブジェの股間に入っていき、骸骨になって崩れる幻想を見る。メアリーはプールでセイヤーを誘い、二人は全裸になってやっと抱き合うが、ことが終わるとセイヤーは力尽きてプールに浮かんでいた。プールを出たメアリーがショートカットのかつらをとると元の長い髪になり、そのままセイヤーの人形を見ながらSMルームを後にする。そして白いロールスロイスで、冒頭のプロの女性に小切手を支払う。メアリーと冒頭の女は最初から計画していたのだ。

 

メアリーは自分の豪華な部屋に行き、森でセイヤーと撮った写真を現像させてみて、一枚を自身のアルバムに挟む。そこには冒頭の片目の男の写真もあった、全てはメアリーが仕組んで男たちを手玉にとって殺していたのだ。こうして映画は幕を閉じる。

 

ラストの真相に呆気に取られるが、ピカレスクロマン的な展開はとっても面白い。メアリーとセイヤーが踏切で抱き合おうとすると、楽器を奏でる男たちが乗った汽車が前を通り過ぎたり、室内の調度品がアートだったり、いたるところが面白い映画だった。

 

「情熱の王国」

ビットリオ・ストラーロのカメラが抜群に美しいのですが、それも相まって、シルエットや、ディスプレイ、鏡を多用した空間演出も素晴らしく、四面を観客席にした舞台の稽古シーンを中止にしたストーリー展開がとにかく楽しい。ミュージカルを作るためのドラマをミュージカル仕立てにしたという入子式の作品ですが、サラの父親の裏稼業の物語の意味が今ひとつ掴みきれなかった。でも流石にクオリティの高い一本でした。監督はカルロス・サウラ

 

四面客席の舞台中央に事故で炎上した車のオブジェがある。今回のミュージカル舞台の演出をするマヌエルは、一流の振付師で元妻のサラに振り付け依頼をしている場面から映画は幕を開ける。やがてオーディションが始まり、マヌエルが、イネス、ディエゴ、フアンらメインキャストに有望な役者たちを選んでいる場面に移る。時にマヌエルがシルエットになり、時にイネスらが鏡の間で踊る。サラは、車の事故で半身不随になったという設定なので車椅子で、オーディションや振り付け指導や演出に加わってくる。

 

そしてメインキャストはイネス、ディエゴに決まる。イネスの誕生日のプレゼントのために、家を出ている父アンヘルが会いにくる。アンヘルは何やら裏稼業をしていて、近づかないようにと母にも言われていた。さらにオーディションで出会った演出助手の男アンドレスの父は怪しい組織のボスだった。

 

ディエゴは女癖が悪く、プライベートな稽古だと言ってイネスを部屋に呼んで抱こうとしたりする。そんなディエゴを受け入れられず、イネスの相手はフアンになる。そんな時、夜の帰り道でイネスが何者かに襲われそうになり。近づいてきた車が銃でその悪漢らを撃ち殺す事件が起こる。その直前、アンヘルがあるものを盗んで、命を狙われているから街を出るようにというアドバイスをうけていた。しばらくしてゴミ置き場でアンヘルが死体で発見される。

 

イネスは、かつて父アンヘルに教えてもらった銃を持ち出し、アンドレスの父のところを訪ね撃ち殺そうとするが、ボディガードに阻止されそのまま引き下がる。やがて稽古も終わり、通し稽古が行われ完成、舞台本番の場面になって映画は終わる。

 

流石に見事な出来栄えの一本ですが、もう少しドラマ部分もしっかり描けていたらもっと奥の深い作品になった気もします。でも、ダンスシーンも素晴らしいし、映像や空間演出も目を見張るほど美しいので、一級品を見た感動を味わえました。