くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

面白い導入部なのに、どんどんありきたりな展開になって行くのは原作が弱いのか脚本にひと工夫足りないのか。それに、自分の心に訴えてこない何かが常にあって、息子を亡くした主人公の苦悩も、夫を冷たくあしらう自分の行為に後悔する妻の姿もグッと迫ってくるものが後一歩物足りなくて、中盤に出てくる青年や、犬、そのほか脇役の果たす役割がちょっと希薄だった気もします。いい映画なのですが、自分としては今ひとつという感じでした。監督はへティ・マクドナルド。

 

老夫婦二人で平凡に暮らすハロルドと妻モーリーンの姿から映画は幕を開ける。そこへ一通の手紙が届く。ハロルドのかつての仕事の同僚クィーニーからだった。彼女は末期癌でホスピスにいるのだという。それは別れの手紙だった。ハロルドは返事を書きポストに出しに行くが、思わずさらに遠くのポストに出しに足を進める。途中、ガソリンスタンドによってそこの女性の言葉に背中を押されたハロルドはそのまま800キロ先のクィーニーの暮らすホスピスへ徒歩で向かう事を決意する。この導入部が実に良い。

 

しかし、年齢もあり、徒歩で進むのはかなりの困難で、カードでホテルに泊まりながらとはいえ、体力的に限界がすぐに来始める。しかしクィーニー宛に手紙を出して、自分が行くまで頑張れと言うハロルドの言葉にクィーニーが次第に気力を取り戻してきたと言われ頑張る。ハロルドからの電話連絡にモーリーンは戻ってきて欲しいと言うが、どこか冷たい反応だった。ハロルドは途中出会った女医に足の手当てを受け、カバンや服をもらって先に進むが。途中、一人の男に写真を撮られてネットにアップされたことから、ニュースになる程話題になってしまう。そしてハロルドの崇拝者的な人々が彼の後を歩くようになる。

 

そんな姿のハロルドをモーリーンは寂しげに見て、ハロルドのところへ会いにいく。その頃にはハロルドはカードも最低限の持ち物もモーリーンに返却していた。しかし、ことが大袈裟になる程ハロルドの気持ちに揺らぎがで始める。さらに、最初に親しくなった青年がハロルドがクィーニーの為に買ったガラスにペンダントを盗もうとしたり、やめたと言った薬を始めたりするのを見るにつけ、ハロルドは彼を崇拝する人たちから離れ一人クィーニーの元を目指すことにする。

 

ところが、後28キロになったあたりで、ハロルドはモーリーンに帰りたいと電話をする。旅の途中で、自分の一人息子で優秀だったデヴィッドが、ケンブリッジ大学に進んだものの自信をなくした末自殺した過去を回想して耐えられなくなったのだ。そんなハロルドにモーリーンは、もう少しだから最後まで行くようにと冷たく突き放す。実は、クィーニーは、ハロルドがデヴィッドを無くして自暴自棄になって勤めていたビール会社で暴れた際、自分が身代わりになって解雇された過去もあった。そして、街を離れる際、ハロルドに会いにきて、自分を責めないようにと伝言をモーリーンに託したがモーリーンはハロルドに告げなかった。そのことをモーリーンはハロルドに謝る。

 

ようやくホスピスに着いたハロルドはクィーニーの部屋に行き、ガラスのペンダントをプレゼントするが、クィーニーは喉を手術していて声を出せなかった。ハロルドはクィーニーに別れを告げ海岸に行きとモーリーンがやってくる。窓に吊るしたガラスのペンダントに光が当たり部屋中に虹色の灯りが広がる。その灯は、ガソリンスタンドの女性や、これまでハロルドに関わった人たちを照らす。そしてモーリーンはハロルドに一緒に帰ろうと言って映画は終わる。

 

良いお話なのですが、途中でニュースになったり、賛同者が現れたりと言う今どきの展開はなかった方が良かったのではないかと思う。息子を亡くしたと言う後悔を繰り返す後半が妙に陰にこもってしまって、クィーニーの話がぼやけていったのはちょっと残念。後一捻り脚本を練り込んで欲しかった気がします。