くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「脱獄広島殺人囚」「日本暗殺秘録」

「脱獄広島殺人囚」

痛快あっぱれな娯楽映画だった。脱獄と感情的な犯罪を繰り返すだけの話なのだが、なぜか人間味が溢れている上に、自分の生き様にストレートに反応させて行く男のドラマがとにかく爽快だった。もちろん、犯罪を許すわけではないのだが、実在の人物をモチーフにしている割に、とってもエンタメ性の強い娯楽映画でした。監督は中島貞夫

 

戦後間も無く、女と寝ている一人の男のところに麻薬を持ち込んで来る男の姿、窓の外では、もう一人植田が覗いている。そして窓から飛び込んで、男たちを撃ち殺し、酒やタバコ、麻薬を盗んで飛び出して映画は幕を開ける。結局植田は逮捕されて広島刑務所に収監されるが、そこから脱獄を繰り返して、どんどん刑期が伸びて行く。時に女郎屋で捕まり、時に妻に会いにいったついでに捕まり、収監されたところで末永という男たちと又脱走しては、ちょっとしたことで捕まってしまうを繰り返す植田という男の生き様ががむしゃらで楽しい。

 

四国にいる妹のところへ逃げるものの、結局また警察に捕まりかけ、妹が警官を撃退して、何処かへ逃げた植田正之が線路を歩いていって映画は終わる。すでに刑期は四十年を超えていた。

 

もちろん、時代背景がああいう時代なので、何もかもアナログで手作り感満載の人たちなのですが、どこか血の通った人間同士のぶつかり合いの繰り返しがとにかく心地よい。今見るとさらにこういう映画の面白さが実感できる気がしました。

 

「日本暗殺秘録」

まるで過去の暗殺映画の史実説明のドキュメンタリーかと思うような導入部から、一気に普通の人間ドラマ、そして主人公が暗殺を実行してからクライマックスは二二六事件で締めくくるというオールスターキャストの大作然とした映画だった。つまらないわけではないものの、では何を描こうとしたのかは散漫になった感じです。監督は中島貞夫

 

桜田門外ノ変から映画は幕を開ける。暗殺を実行した水戸藩藩士は結局殺されてしまい、さらにそれに続いて明治大正の暗殺事件がオムニバス風に語られた後、小沼正の物語が始まる。成績優秀だったものの、経済的に余裕がなく小学校のみの小沼は落合が経営する菓子店に勤務する。ところが、官権の嫌がらせで落合の会社が倒産、小沼は井上日召の考え方に傾倒して行く。やがて革命思想へと発展して行く井上日召らの面々と共に小沼は海軍士官藤井らと共に活動を進めるが、藤井が転任の途中で帰らぬ人となり、小沼は井上日召の命を帯びて大蔵大臣暗殺を実行、そして死刑となる。

 

やがて、青年将校への弾圧の中、五一五事件が起こり、さらに二二六事件が起こって、世間は革命の機運が高まったかに見えたが、結局、全ては上層部を動かすまでに至らず、映画は終わって行く。

 

一つ一つのエピソードはさすがにしっかりと描かれているし、演じる役者層の厚さもあってなかなか見応えがある。さらに、当時の風俗描写もノスタルジーを漂わせて、今見ればその辺りも楽しめるから良い。決して名作の域に入らない映画かもしれないけれど、二時間余り十分に堪能できる作品でした。