くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「狼が羊に恋をするとき」「村と爆弾」「SUPER HAPPY FOREVER」

「狼が羊に恋をするとき」

とってもおしゃれでポップなラブコメディの秀作。もう一回見たくなるような楽しい映画だった。ストップモーション撮影やアニメを交えながら、映画でしかできない映像を駆使した演出がとにかく楽しくて夢見心地になってしまいました。シャオヤンを演じたジエン・マンシューといい女優さんも可愛いし、面白かったなあとため息してしまう作品でした。監督はホウ・チーラン。

 

北極の氷は三角で南極の氷は平坦という何気ない会話から、ベッドで目覚めたタンが、おでこに「予備校に行ってくる」というメモが貼り付けられて彼女が出て行ったことに気がつく。それを最後に彼女に会えず、タンは恋人を探すために台北南陽街の街にやってくる。コピーショップで働き始めたタンはおこわ屋のおばさんが飼っていた犬状元をコピー屋の主人に頼まれて探しながら予備校に届けるテスト用紙を配達しながら暮らす。

 

そんなある日、試験用紙に羊のイラストを見つけ、いたずらにオオカミのイラストでコメントをしたが、コピー屋の店長がコピーを手伝ったことから、タンのイラストと羊のイラストが印刷されて予備校に届く。生徒たちは大盛り上がりで、その後も羊とオオカミのやりとりを楽しみ、SNSでも話題になっていく。タンはコピー屋の6階のロッカーを片付けるように言われ、中を整理していて、永遠に愛すという言葉が入ったポケベルを見つける。タンは持ち主に返すべきだと奔走し始める。

 

一方、羊のイラストを描いたシャオヤンは、かつて恋人に紙飛行機にかかれた「留学する」という一言で別れた悲しい過去を話し、幼い頃母が亡くなる時、百数えたら目が覚めるからと話していたことを実行するも母は帰らなかった思い出を話す。シャオヤンはイラストレーターを目指していたが、何度応募しても落選ばかりで落ち込み、今の予備校で働いていた。やがてシャオヤンとタンは何かにつけ一緒に行動し親しくなっていく。羊とオオカミのやり取りも続いていた。

 

ある日、タンは、自分が恋人を探していることの記憶から遠ざかってきたのに気がつく。いつのまにかシャオヤンが好きになっていた。一方、シャオヤンは予備校を退職してこの街を出ていくというメッセージを羊のイラストに書き込む。それを見つけたコピー屋の主人は、羊に数字が隠れているとタンに教える。タンが過去のイラストを見直すと、100に向かって数字が書き込まれていた。タンは街を出ていシャオヤンを追いかけるために、試験用紙に1314の時間に紙飛行機を飛ばして欲しいと書き込む。

 

やがてその時間、予備校の生徒たちが一斉に紙飛行機を飛ばす。町中に紙飛行機が飛び交う中、タンはシャオヤンを追いかけ追いつくが、そこにかつての恋人が現れる。しかし彼女は「これから予備校に行く」と去っていく。タンはシャオヤンに声をかけ、シャオヤンは隣町に引っ越すから手伝って欲しいとタンに頼んで映画は終わっていく。エンドクレジットの後、ラーメン屋の親父がコピー屋の店主に、訓示めいた言葉を投げるエピローグも楽しい。

 

まるでアニメーションのような絵作りで始まるオープニングから、試験用紙の羊が動き回る愛くるしい場面、オオカミのイラストのユーモア、さらにおこわ屋のおばさんが捨て猫を見つけたり、蕎麦屋の屋台の主人が妙に強面だったり、一つのロッカーを縁にしたラブストーリーがあったりと、小さなユーモアを散りばめながら、主人公たちの恋物語が成就していくおしゃれ度がとっても素敵な作品でした。

 

「村と爆弾」

のどかな田園風景と素朴な村人たちの姿を描きながら、物語は次第に辛辣なブラックコメディに変化していく。その作劇の見事さにラストシーンはあっけに取られてしまった。安定した構図と、さりげない戦争への非難、そして日本統治下の情景が詰め込まれ、たわいない話が非常に深みのある作品として完成された一本でした。監督はワン・トン。

 

村の巡査と日本軍の兵隊が、台湾人で日本のために戦って戦死した兵士の遺骨を届けにくる場面から映画は幕を開ける。第二次大戦末期、日本統治下の台湾のとある村、アファとコウズエは、目に牛の糞を塗って眼病になって兵役を逃れていた。二人は村の巡査の世話をしながら、田を耕し貧しい生活を送っている。たくさんの子供を育てて毎日を送るが、妻の妹夫婦が街からやってくる。そして妹の夫の名義の田を、製糖会社に売ることを決めたという。さらに牛も日本軍によって徴用され連れて行かれてしまう。

 

そんなある日、アメリカ軍の飛行機が村に爆弾を落とすが、アファらが世話をする畑に落ちた爆弾が爆発せず残ってしまう。村人は、この爆弾を街の巡査に届けたら褒美が出るという村の巡査の勧めで、街へ持っていくことになる。アファとコウズエが荷車を押し、巡査が先頭になって街に運ぶ。

 

途中荷車も壊れて、担いで街にやってくるが、街の巡査は危険だから捨てるようにと銃で脅して命令する。嫌々ながら海に爆弾を捨てるが、直後、爆弾は爆発、大量の魚が浮かぶ。アファとコウズエは魚を桶に山と獲って村に帰ってくる。これまで食べたこともないほどの魚をたらふく食べるアファら家族の姿で映画は終わる。

 

なんとも言えないブラックコメディで、客が来た時はご馳走が出るのでその残りにありつけると楽しみにする子供達の姿、意気揚々と爆弾を運ぶ巡査が鼻歌を歌っていく姿、途中吊り橋の上で出くわす葬式の参列、異常に怖がりの街の巡査、それぞれのシーンが実に辛辣でユーモア満点です。魚を食べるアファら家族の場面をゆっくりカメラが引いていくエンディングも見事。なかなかの映画だった。

 

「SUPER  HAPPY FOREVER」

評価が高いので見に行ったが、インディーズ映画という色合いレベルの作品だった。雑な脚本と、間がもたないカット割、意味のない長回しなどは商業映画とは一線を画した感のあるものの、物語の組み立てはそれなりによくできていたと思います。監督は五十嵐耕平

 

五年前の思い出のホテルにやってきた佐野と宮田の姿から映画は幕を開ける。佐野は最近、愛妻凪を亡くしやや自暴自棄になっていた。佐野は彼女がこのホテルで無くした赤い帽子を今も探していた。宮田はそんな佐野を立ち直らせようと奔走しているが気持ちは届かない。宮田はボクシングをしている。

 

たまたま二人が出会った女性が、宮田が参加しているSUPER  HAPPY FOREVERというセミナーのメンバーらしく、佐野も含めて飲んだりするが、凪の話をした際、ありきたりな反応をする女性に佐野は嫌気がさしてしまう。宮田と飲みに行き、酔い潰れた佐野はタクシーの運転手に絡んでみたり、ホテルで五年前の赤い帽子を聞いてみたりする。

 

宮田の思いとは裏腹に落ち込むばかりの佐野は、指輪を捨ててしまう。この指輪は結婚指輪なのかどうかよく分からず、そんな佐野に愛想を尽かして宮田は先に帰ってしまう。このホテルは間も無く閉館となり、ここで働くベトナム人のアンの姿もあった。部屋に戻る佐野は、凪が口ずさんでいた曲を歌うアンとすれ違い、さりげなく部屋の中でその声を聞いて物語は五年前に遡る。

 

五年前、ホテルのロビーで居眠りする女性のスマホを佐野はじっとみていたが、落ちかけてあっと声を出し、その場にいた凪も声を出して佐野と目が合う。宮田と佐野はバカンスに来たが、凪も友達と遊びに来ていた。凪の友達は祖母が急死して来れなくなり一人で観光することになる。凪は浜でアンと出会い、軽く会話をする。ホテルのイベント会場で照明の補助をしていて歌を歌っているアンを凪が聞いていた。街で凪を見かけた佐野が声をかけ、宮田と三人で食事したりクラブに行ったりする。

 

佐野はたまたま洋品店の前で見つけた赤いキャップを凪にプレゼントする。クラブの帰り、宮田はクラブで知り合った女性と消えてしまったにで、佐野は凪とホテルに戻る。そして翌朝の朝食を約束して別れるが、翌朝、凪は現れなかった。凪は帽子を無くして探していたのだ。凪はチェックアウトする際アンに、もし赤い帽子が見つかったら被っておいて欲しいとホテルを後にする、帰る途中、佐野と再会する。

 

現在に戻り、アンはこの日を最後にホテルを去る。同僚と控え室で話し、赤いキャップを被って外に出る。そのキャップは凪のものだった。そして、日本にいる時時々来た桟橋に行き海を見る場面で映画は終わる。

 

凡作ではないけれど、商業映画まで行かない。至る所にチャレンジ精神が見える映像ではあるのですが、まだまだ未完成な展開は、後一歩の仕上がりという感じの作品でした。