くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アデル ファラオと復活の秘薬」

アデル ファラオと復活の秘薬

やってくれました。リュック・ベッソン監督、ただでは単純なアクションアドベンチャーは作らない。宣伝をみた段階では明らかにインディ・ジョーンズシリーズの女版かと思われたが、ふたを開けたら、とんでもない、小気味よいフランスコメディに仕上がっていました。

タイトルは石版のような背景に物々しいロゴで始まります。やがてそれが左に抜けると、夜のパリ。そこへ一人の太った男がやってくる。「この男はこの物語直接関係はない・・」のナレーションがかぶる。そしてその男はジャンヌ・ダルクの彫像の前でたち小便を始める。明らかにリュック・ベッソンが自らの作品へのオマージュ?である。
ところがふと空を見上げるときらきらとオーロラのような光が、あわてて立ち去る男。このオーロラ、実は近くの建物にすむ天才科学者エスペランデュー教授がとある実験をしたことによる。それは、死したものを生き返らせるというもの。部屋の中にものが舞い、やがてその場にうつぶすと、画面は変わってルーブル博物館、そこの巨大な卵が孵化して怪鳥が飛び出し夜の町へ、それをたまたま見損ねたカポニ警部、そして・・と、次々と登場人物が紹介されるのですが、実に軽快、かつコミカル。ここまでで明らかにインディ・ジョーンズシリーズとはひと味違う。

さて、ここで博物館に勤めるズボロフスキはルポライターアデルに恋をしているというエピソードが挟まれ、物語はアデルの方へ進んでいきます。
「氷の怪物」の著作を終え、次の目的地ペルーに行くべきところ、妹の不慮の事故から生き返らすためエジプトへ。このアデルを演じるルイーズ・ブルゴワン、目の覚める美人ではないのですが、ちょっとお茶目な三枚目的なキャラクターがなんとも愛らしいのです。そして、時に男勝りの言葉でその場を切り抜けるおもしろさも、アメリカ映画にない人物ですね。

エジプトの墓に進入し、お目当ての古代エジプトの侍医のミイラを発見するまでが、明らかに「インディ・ジョーンズ失われた聖棺」を茶化しています。執拗にねらうデュールヴーの姿はインディ・ジョーンズで登場するナチスの黒めがねの男とほぼ同じ風貌、さらに石室内の仕掛けはどこかインディ・ジョーンズの冒頭シーンを思い起こさせる。
しかも、このアドベンチャーシーンはほんの短時間で、物語は一気にパリへ。

ミイラを持ち帰ったもののそれをよみがえらすためのエスペランデュー教授が死刑の宣告をされてしまう。そこで助けださんと次々と変装して監獄に忍び込むアデルのシーンはまさに古き良き喜劇のパターンです。ここも笑えるし、リュック・ベッソンがにんまりする姿が思い出されるほどに心憎い。

さらにはよみがえった怪鳥にまたがって空を飛ぶアデル。もう、なんでもありですが、この思い切りの良さがこの映画では見事に作品に活力を与えているからいい。そしてエスペランデュー教授を救助し生き返らせたミイラは実は原子物理学者で、侍医ではなかった。笑わずにはいられないですね。もう、不思議な爆笑です。

そして物語はルーブルでたまたま開催中のエジプトミイラ展。半径2キロ以内をよみがえらせるエスペランデューの力を頼りに、ミイラをよみがえらせ、侍医に妹を生き返らせてもらう。
さて、さらに物語が続くのがまたいいです。
アデルに恋するズボロフスキーはアデルの家に花を持って現れると、生き返った双子の妹アガットが出迎え。「アデルは休暇で旅に出た」という。ここでアガットとズボロフスキーとのロマンスが始まったかのように見せて、画面は変わるとアデルは巨大な客船へ乗船。カメラが引くとそれはタイタニック号。

妹を生き返らせ、恋をもたらしたのは自分の命と人生を入れ替えただけという皮肉なラストです。
このショットは本当に心憎いというほかない。このシーンで、この映画は一級品のフランスコメディーに仕上がりました。
よかったです。