くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「私にふさわしいホテル」「4匹の蝿」

「私にふさわしいホテル」

これはめちゃくちゃ面白かった。芸名能年玲奈以来ののんちゃんのコメディエンヌの才能爆発の一本。そこに監督の堤幸彦のさりげない冗談演出が散りばめられ、テンポ良くあれよあれよと流れていく有象無象の世界がとにかくあっぱれ。クオリティが一級品とかそんなものは差し置いて、年末にニコニコ笑って劇場を出られるエンタメ映画でした。

 

かつての文豪達が泊まって執筆したという山の上ホテル。そこに駆け出しの作家加代子がやってくるところから映画は幕を開ける。実は彼女は二年前に文詠社の新人賞を受賞して華々しくデビューしたが、文壇の重鎮東十条宗典が酷評したことで、作家生命を閉ざされていた。そんな加代子の部屋に大学の先輩で文詠社編集者の遠藤が訪ねてくる。加代子の階上のスイートルームに東十条宗典が泊まっていて、社の記念短編集に出す記事を催促しにきたのだという。加代子はかつての怨念を思い起こし、さらに東十条宗典が今夜短編を書き上げられなければ、自分がかつて遠藤と仕上げた短編が食い込む可能性があると聞いたため、東十条宗典の執筆を妨害することを思いつく。

 

遠藤が加代子に差し入れたシャンパンを持って、ホテル従業員のふりをして東十条宗典の部屋を訪れた加代子は、巧みな話術で結局東十条宗典の執筆を止め、加代子の短編を食い込ませる。遠藤からあの夜出会った従業員が、お芝居をしていたことを知った東十条宗典は無念を覚えるが、文詠社のパーティにやってきた東十条宗典は、遠藤が連れていた加代子(別のペンネーム)と再会する。東十条は、あの夜を非難するが、加代子は別人だと断固反論する。そして巧みに東十条宗典のファンであることをアピールし、東十条の行きつけのクラブに連れて行ってもらい東十条の贔屓のママ明美と知り合う。明美が来ていた着物は東十条がプレゼントしたものらしかった。そこでしこたま飲んで楽しんだ加代子は、東十条を置き去りにして帰ってしまう。

 

そんな加代子の前に、才能あふれる高校生作家有森光来が現れ、遠藤はそちらに夢中になっていく。たまたま、遠藤がその作家を連れて行った店で加代子と東十条が出会い、二人で遠藤を貶めることを決意する。クリスマスの日、遠藤夫婦はいつもコンサートを聴きに行き、二人の子供達はホテルの部屋で待っているという家族行事を通例にしていた。子供達の部屋にサンタクロースを呼ぶ手筈だと知っていた加代子と東十条は、サンタとトナカイに扮して遠藤の子供達の部屋を訪ねるが、子供達の冷めた対応にドギマギしている間に遠藤夫婦が戻ってきたので這々の態で逃げてしまう。そして加代子と東十条の喧嘩は再燃する。

 

その後、鳴かず飛ばずでパッとしない加代子は、自分で本を持って書店を周りのどさ回りに出かける。そこでカリスマ書店員と出会う。結局相手にされなかったものの、帰り際に万引き常習犯を捕まえた加代子はカリスマ書店員に感謝され、加代子の本は読者選出のベストワンに選ばれてしまう。そんな加代子に、社の最高賞のノミネートの話が遠藤から聞こえてくる。しかし、その最終選考員に東十条宗典が加わっていると聞いて、遠藤も諦めかけるが、加代子は、自分と一蓮托生してくれないと担当を外すと豪語する。そして遠藤の情報を元に、加代子は、東十条がクラブのまま明美にプレゼントした着物を借り、東十条の妻千恵子、娘美和子に近づく。

 

一仕事終えて自宅に戻った東十条は、加代子が訪ねてきているのを知る。しかも千恵子の友人なのだという。さらに帰ってきた美和子とも親しいと聞いて唖然とする。千恵子の提案で夕食を一緒にし、さらに一泊して欲しいというに及んで東十条はついに切れて、何もかもを千恵子らに暴露する。失敗に終わった加代子は後日、騙していたことを千恵子に謝りに行く。しかし、あれ以来宗典は執筆に余念がないのだという。結局選考会は欠席し、加代子は念願の賞を受賞、その発表会の場で遠藤に感謝の言葉を伝える。

 

この日、すっかり売れっ子ベテラン作家になった加代子は、山の上ホテルのかつて東十条宗典が泊まっていたスイートルームにいた。遠藤が訪ねてきて、人気のサンドイッチを届ける。加代子が今執筆中の小説「私にふさわしいホテル」の原稿がアップになって映画は終わる。

 

姿形は全く変わらず、華麗なファッションで変身するのんのキャラクターがめちゃくちゃに可愛いし面白い。少々の無理のある演出も笑い飛ばしてしまうほどに吹っ切れた演技に、全盛期の能年玲奈を思い出して拍手してしまいました。原作の柚木麻子の作品は今度はカリスマ書店員を演じた橋本愛の主演で来年公開とエピローグが流れて全ておしまいというオチも楽しい。本当に至福のひと時を過ごせました。

 

 

 

「4匹の蝿」

今回見た動物三部作の中では一番出来の悪い、どちらかというとギラギラしたものがないサスペンス映画だった。犯人のサイコキラーのカリスマ感が弱くて、殺人の動機がかなり曖昧で無理があるので、ラストに真相が見えるあたりのインパクトが弱くて、やや平凡な出来栄えだった。監督はダリオ・アルジェント

 

スタジオでドラムを叩く主人公ロベルトの姿から映画は幕を開ける。一週間ほど前から黒眼鏡の男がロベルトをつけてきて気になっている。ある夜、ロベルトが逆にその男を追跡して劇場の中に追い詰めたが、男がナイフで襲ってきたので争ううちに彼を刺し殺し、男は舞台の奈落に落ちて死んでしまう。その際、人形の仮面を被った何者かに写真を撮られてしまう。翌朝、川で謎の他殺体が発見される。

 

それ以降、その時の写真などが送られてくるようになり、謎の強迫観念に襲われるようになる。また夢でギリシャの処刑の場面が繰り返し見るようになる。さらに電話でロベルトは脅迫されるが、なんとのその声の男はロベルトが劇場で殺したと思った男だった。犯人はトリックナイフを使ってロベルトが殺人を起こしたように思わせ、恐怖を植え付けたのだ。ロベルトは友人のディオに相談に行く。間も無くしてメイドのアミリアも何者かに殺される。ロベルトを騙した男は、犯人の異常さに踊らされているのは嫌だと事件から降りようとするが逆に犯人に殺されてしまう。

 

ロベルトは私立探偵を雇って事件を追う一方、妻のニーナは安全のために実家に帰らせる。探偵は犯人が送ってきた証拠書類に共通点を見つけ、精神病院で治療を受けていたある意味パラノイアの人物だと突き止めていくが、彼も犯人に殺されてしまう。ニーナの従姉妹のダリアが心配してロベルトの家に来て、なぜか体を合わせてしまう。しかし、ロベルトがスタジオ収録して留守の時、ダリアも殺されてしまう。彼女が死の寸前、網膜に残った画像を解析した結果、4匹の蠅のようなものが見つかる。しかし、それは謎だった。

 

ロベルトは、いよいよ自分の番だと考え、自宅でピストルを持って犯人を待つ。外ではディオが待ち構えていた。そこへニーナが帰ってくる。ロベルトはニーナにすぐ逃げるようにと追い出そうとするが、その時、ニーナのペンダントが揺れ、それが4匹の蝿に見えた。真犯人はニーナだった。父に虐待され、復讐を誓っていたが、自分が精神病院に入院している間に死んでしまい、その代わりに父と瓜二つのロベルトを恐怖に叩き込んで殺す計画を立てたのだ。しかし間一髪ディオが駆けつけ、ニーナは家を飛び出して車で逃走しようとするが、トラックに激突して首が飛んで死んでしまう。こうして映画は終わる。

 

異常な心理の犯人という設定だが、その異常さがあまり見えない上に、犯人の一人称カメラで終始捉えていく殺人シーンにも今一つ斬新な演出が施されていないので、かなり展開がダラダラしてしまう。面白くないとは言わないものの、今回の三部作の中では一番低レベルだった。

 

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