「歓びの毒牙」
荒削りではあるけれども、なかなか面白いミステリーホラーだった。エンニオ・モリコーネの流麗な音楽とヴィットリオ・ストラーロの美しいカメラ、光と影を多用した緊張感、次々と現れる謎の存在、次第に見えて来るかに思われた後のどんでん返し、小品ながら楽しめる一本でした。監督はダリオ・アルジェント。彼のデビュー作。
女性の姿をカメラに収めるファインダーのショットが何度か繰り返されてタイトル、そして女性の連続殺人が起こっているというナレーションが入って本編が始まる。アメリカからイタリアへ旅行でやってきた作家のサムは、原稿料をカルロから受け取ってアパートへ帰る途中、近代オブジェを飾っている画廊の中で女性が襲われている現場を目撃する。助けに入ろうとしたが、入り口のガラスが閉まっていて、中玄関に閉じ込められてしまう。通りかかった通行人に警察への連絡を頼み、間も無くモロジーニ警部がやって来る。通報が早く、襲われたモニカという画廊の主人ラニエリの妻は助かる。しかし、最初の目撃者ということでサムは出国を止められパスポートもモロジーニ警部に取り上げられる。
サムは恋人ジュリアとしばらく滞在せざるを得なくなるが、夜歩いていいて突然斧で襲い掛かられる。そこでサムは犯人を探し始める。そんな中、さらに五番目の殺人が起こる。最初の被害者が勤めていた骨董店に行ったサムは、被害者の女性が殺される直前に売った絵の写真を手に入れてアパートに貼る。サムは、モニカが殺されそうになった際に何かを目撃したと思ったが思い出せず、何度もあの時の場面をフラッシュバックする。さらに、サムは、護衛でつけてきている刑事を車で跳ね飛ばした男にさらに命を狙われる。しかし、犯人らしい男を追ったが結局見つからなかった。サムは、骨董店で売られた絵の作家に会いにいく。しかし、その作家は犯人ではなかった。その頃、犯人はジュリアに迫っていた。間一髪でサムが戻ってきて犯人は逃げてしまう。
しばらくしてサムのアパートに犯人から脅しの電話が入る。それを録音したテープをカルロに聞かせたが、カルロは何か気になるからと持ち帰る。そして、羽が水晶のような珍しい鳥の鳴き声が背後に聞こえるとサムに知らせに来る。その鳥はイタリアではある動物園にしかいなかった。サムはモロジーニ警部やジュリアらと動物園に行き、そのそばにある部屋を見つける。そこからまた女性の悲鳴が聞こえてきた。モロジーニたちが部屋に突入すると、なんとモニカがラニエリに襲われていた。そして揉み合いの末ラニエリは窓から落ちてしまう。死の直前、自分が犯人だと告白し事件は終わったかに思われたが、ジュリアがいないことを知ったサムはジュリアを探す。
目撃者を追って一軒の建物に入ったが、そこでカルロが殺されていた。ベッドの下にはジュリアが縛られていたがサムは気が付かない。そこへ男装したモニカが現れる。サムはモニカを追って画廊へ行くがモニカに反撃されてオブジェの下敷きになり今にもモニカに殺されそうになる。そこへモロジーニ警部が駆けつけサムは助かる。真犯人はモニカだった。夫ラニエリは妻を庇うために自ら告白したのだ。サムが最初に画廊で見た景色は、モニカがモリエリを襲っていた景色だとわかる。モニカは10年前から精神疾患を患っていた。ラニエリはモニカをかばううちにラニエリも殺人鬼と化していたのだ。サムとジュリアがは晴れて飛行機で帰国して映画は終わる。
少々雑で甘い展開も散見されるものの、二転三転する謎が謎を呼ぶミステリーの面白さは堪能できる一本だった。
「ダリオ・アルジェント PANICO」
ダリオ・アルジェントのドキュメンタリー。デビュー作から最新の作品までが、彼に関わったスタッフや娘、監督らに語られる作品で、ファンとしては楽しめる一本でした。監督はサイモン・スカフィディ。
次回作の脚本を書きため、ホテルに籠るためやってきたダリオ・アルジェントの姿から映画は幕を開ける。そして監督のギャスパー・ノエ、ギレルモ・デル・トロや、娘アーシア・アルジェントをはじめ、さまざまな人物によるダリオ・アルジェント作品の考察が語られていく。そして、新しい脚本が完成してホテルを後にして映画は終わる。
懐かしい作品の撮影風景や女優たちとのやりとりも興味深く、改めてダリオ・アルジェント作品を見直したくなりました。