くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「抱擁のかけら」

抱擁のかけら

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督作品をはじめてみました。
美しい。まさに映像で見せてくる見事な画面にうっとりしてしまいます。

まず映画のカメラのファインダーから覗く画面が映り、それを背景にタイトルバックが続きます。この懲りようからして、自分好みの監督さんではないかと予感が走るのです。

物語が始まると、全編、赤を基調にした画面作り、登場人物の一人が必ず真っ赤な衣装を着ていたり、ソファ、調度品、車など画面に映るものの中に必ず真っ赤なものが存在する。それと対峙するようにブルーの色彩のものや白いものがかぶさる。

またあるときはデスクの背後の壁にでかでかと書かれた果物の油絵が飾られ、はっと息を呑みます。そしてあるときは色とりどりのデザインのカーテンをあしらったりと画面作りにおける色彩へのこだわりはかなり高いですね。

色彩のみならず構図も芸術的で、ストーリーのほとんどが真正面の左右対称の画面なのですが、背後の景色などがなんとも美しく捕らえられていて、統帥するような美学を感じてしまう。

物語は主人公マテオ。かつて映画監督でしたが、今は失明しハリー・ケインと名前を変えて脚本などの執筆活動をしている。時は2008年という設定で始まります。金髪のロングヘアーの女性と親しく話しているかと思うと真っ赤なソファでセックスを始める。そのあと、入れ替わりに彼のパートナージュディットが入ってくる。かなりびっくりする導入部です。
あるときライ・Xという一人の男が訪問、この男の訪問を機に物語りは1994年に写ります。

こうして回想の形式をとりながら、主人公マテオがかつて愛した女性レナ(ペネロペ・クルス)との物語がつづられていきます。

大会社の社長秘書だったレナが社長の援助を得、やがて愛人となるもその後マテオと知り合い愛し合うようになります。目くるめくような画面展開は前述の美しい真っ赤な色彩表現でなんとも激情的な愛の形がスクリーンに映し出される様は目を離せない魅力ですね。

一方でレナに嫉妬のあまり異常な行動に走り出す社長エルネスト、そしてその手足となって動く息子の姿がストーリーの中心になってきますが、あまりにもどろどろした内容が続くにもかかわらず、あまりにも画面が美しすぎるのでかえって不気味さが倍増されるようです。しかも、時に流麗に、時にミステリアスな音楽が背後に効果を加え、作品に深みを加えていく様も見事。

クライマックスの悲劇につながるまでのマテオを囲む人々とエルネストとの確執の展開が、劇的なラブストーリーでありながらどうなるのかという謎解きのような不思議なストーリーテリングで私たちはまるでペドロ・アルモドバル監督の魔力でもはまったかのような感覚に陥るのです。

色彩と映像の美学を駆使し、ばらばらになってしまった写真を組み合わせるという作業と不名誉なままで完成した映画の再編集による復活を描くラストシーンはどこかシュールながら男と女の純粋すぎる情熱的な恋の物語の再現のようで、言葉にしにくい感動を呼び起こされました。

ペネロペ・クルスが非常に魅力的で、次々と変わる衣装の数々、さらにウィグや化粧の変化によりさまざまに変身する彼女の魅力の見込まれた感じがした映画でしたね。
すばらしかった。