くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ベルヴィル・ランデブー」「アウシュヴィッツ・レポート」

ベルヴィル・ランデブー

2004年製作作品のリバイバルです。デフォルメされた独特のキャラクターと美しい構図の背景で描かれるオリジナリティあふれるアニメーション。日本のアニメのクオリティとはまた別の意味での面白さを楽しめる作品でした。お話もシンプルでコンパクトで、台詞を極力排除したユーモア逢れる展開も楽しい映画でした。監督はシルバン・ショメ。

 

ベルヴィルの三姉妹というステージがモノクロで映し出され、映画は本編へ流れていく。内気な孫のシャンピオンに祖母は何か興味を引くものはないかと考え、生前の両親の写真の中に自転車を見つけてあてがってやる。シャンピオンは自転車に夢中になり、やがてツール・ド・フランスを目指して練習する日々になる。祖母が付き合いながら練習するコミカルなシーンと愛犬ブルーノのユーモアが織りなす展開が楽しい。

 

やがて競技の日、祖母は救護車の屋根からシャンピオンを応援してついていくが、その車が何者かにパンクさせられ、なんとか追いついたものの、シャンピオンは誘拐されたことがわかる。黒眼鏡の男たちは選手のうち最後尾あたりの三人を拉致したのだ。ブルーノが落ちていた帽子からシャンピオンの行き先を見つけるがすでに船に乗せられて港を出ていくところだった。祖母とブルーノは足漕ぎボートを借りてその船を追いかける。船はベルヴィルという都会へたどり着くが、祖母達はシャンピオンの行方を見失ってしまう。

 

日々の食事に困る祖母達だが、たまたま落ちていた自転車のリムで演奏しているところへ三人の老婆が現れ自分たちの家に招く。手榴弾を使ってカエルを獲って食べたり、いろいろユニーク。彼女らはミュージシャンで、まもなくして、その三人のステージに一緒に出た老婆は、ついて行ったブルーノが客の一人にシャンピオンの微かな匂いを嗅ぎつける。なんとシャンピオン達三人はマフィアの自転車賭博で、スクリーンに映る映像に合わせて自転車を漕ぐ仕事を奴隷のようにやらされていた。

 

祖母は巧みに賭博場へ潜入し、三姉妹の協力もあって、シャンピオンらと一緒に脱出。この後追ってくるマフィア達とにカーアクションならぬ逃亡アクションが展開する。極端な街並みや坂道などを縦横無尽に駆け抜けていく祖母達がなんともユーモア満点。そしてまんまと逃げおおせて、町を出て行って物語は終わる。

 

アカデミー賞ノミネート作品だけあって、ユニークな一本で、終盤少々くどくなってくるが面白い作品でした。

 

アウシュヴィッツ・レポート」

ナチスの非道を描いているというより、それを題材にして現在の移民問題、民族問題、差別問題をグローバルに描いていこうとした作品で、手持ちカメラを多用した長回しとカメラの機動性を有効に使った縦横無尽なカメラワーク、さらに息遣いなどの音響効果が生み出す緊迫感により映像表現を駆使した一本でした。監督はペテル・ベブヤク。

 

アウシュヴィッツ=ビルケナウ、1944年、一人の囚人が入り口つるされている映像から映画は幕を開ける。アルフレートとヴァルターが、全裸の死体が山積みされた小屋の中でこの収容所で集めた資料をまとめている。そして、作業所の一角に掘られた場所に入り込み、上に板などを置いてもらう。その夜、二名の囚人が行方不明ということで、二人がいた第九棟の囚人達が屋外に集合させられる。そしてライスマンの監視下で立ったままで問い詰められる。

 

一方、アルフレートとヴァルターは二日、三日と騒ぎの沈静化を待つがその間に上に角材を積まれてしまう。三日目を超え、アルフレート達は外に出るべく持ち上げようとするが持ち上がらなくなる。一方で、ライスマンは、自分の息子が戦死し、ドイツ国家もこの収容所も、何もかもに疑問を抱いたままだった。

 

ルフレート達はようやく外に出て、収容所の金網を脱出、一路国境を目指すが、アルフレートは怪我をしていてなかなか前に進めない。食料も尽き、森の中で休んでいるところへひとりの女性が通りかかる。彼女に食料をもらい、義兄に案内されて赤十字の支社までたどり着く。しかしやってきた赤十字の有力者に収容所内の実態とその記録を提出するが、これまでの調査なども含め、証拠にならないと困惑される。

 

結局、アルフレート達が目指した収容所への爆撃はなされないまま、やがて終戦を迎えるが、アルフレート達の報告で12万人のユダヤ人は送還を免れることになる。エンドクレジットで、移民についてやホモセクシャルについてや黒人問題などについての為政者の信じられない発言の数々が流れて映画は終わる。

 

映像表現のクオリティはなかなかのものであるが、訴えたいメッセージはちょっと偏ったものが見えなくもない。映像作品としては評価できるものの、手放しで絶賛する映画ではなかった気がします。