くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「日の名残り」「情無用の街」

日の名残り

こんな良い映画を見逃していたんだな。素晴らしい名作でした。こういうしっかりとした大人の映画を見ていると嬉しくなってきます。演技もしっかりしてるし、脚本も見事、映像も美しい。何度も書きますが素晴らしい作品でした。監督はジェームズ・アイヴォリー

 

イギリスの豪邸ダーリントンハウスの絵からアイワイプして、この屋敷が主人の死により、解体され売却される危機になっているナレーションから映画が始まる。邸内にあった絵画などのオークション場面、そして一人のアメリカ人ルイスが次々と落札し、ダーリントンハウスも購入し、この家に仕えていた執事スティーブンスが過去を回想する形で物語が始まる。

 

シンメトリーなカットから入る冒頭部分が実に美しいし、室内の調度品、役者達の身のこなしが素晴らしく気品がある。スティーブンスはこの邸になくてはならない執事であり、ダーリントン卿も絶大な信頼を置いていた。

 

買い取ったルイスがアメリカから妻を迎えるにあたり、邸内の使用人を増やすのにスティーブンスに一任、彼は休暇を兼ねて、かつて一緒に働き、結婚とともにやめたベテラン女性ケントンを訪ねることにし、車を走らせる。その途中、華やかな頃のダーリントンハウスが回想されていく。

 

老体となった父の採用、二人のユダヤ人の採用などのエピソードが語られる一方、スティーブンスに密かに想いを寄せるケントンの健気な姿。仕事に忠実で、ケントンの想いも肌で感じながらも不器用なまま受け入れられず、淡々としたふりをして仕事をするスティーブンスのプラトニックなラブストーリーもとっても素敵です。

 

どうにもならないケントンがかつての執事仲間ベンのプロポーズに応え、その旨をスティーブンスに報告するもスティーブンスもどう対処し良いかわからないけれど心は動揺してしまう姿が切ないほどにピュアです。

 

そして、ケントンは泣きじゃくるもスティーブンスは仕事の指示をするしか言葉が浮かばない。動揺してワインの瓶を落としたり顔色が変わってしまうというさりげない描写が痛々しいほどに胸に迫ってきます。

 

そして、時が経って今、スティーブンスはもう一度ケントンを身近にすることで、想いを遂げようと手紙を出し迎えにいくのですが、ケントンの娘に子供ができ、遠くに離れられないからと断る。バスに乗ったケントンの手がスティーブンスの手から離れるクライマックスがたまりません。そして今なお想いを抱いているケントンが涙ながらに去っていくシーンもたまらなく切ない。さらに背景の映像も抜群に美しいので、もうスクリーンから目を離せません。

 

邸に戻ったスティーブンスが手際よくルイスの妻を迎える準備をするシーンからカメラが屋外に出てゆっくりと舞い上がって邸を見下ろして映画が終わります。

 

回想シーンの中で、ダーリントン卿の政治的な考えや当時のイギリス貴族達の立ち位置、ドイツ、ユダヤ人などへ考えなど、現代のシーンと交互に重ねてさりげなく描写していく脚本も見事な仕上がりです。名作というのはこういう映画を言うのでしょうね。圧倒されてしまいました。

 

「情無用の街」

ストレートに面白い映画だった。FBIとギャングの対決映画ですが、巧みに組み立てられたストーリー展開が秀逸。「インファナルアフェア」を思わせる物語ながら、終盤は手に汗握るクライマックスになっていました。監督はウイリアム・キーリー。

 

とあるカジノに覆面をしたギャング一味が襲撃するところから映画が始まる。いきなり、女性が撃たれる。FBIのフーパー長官は、勢力を広げてくるギャングを一掃するためにさまざまな計画を実施しようとしている。今回の襲撃の後に起こった事件も同様の拳銃で被害が出たことが判明。FBIの科学捜査の様子がドキュメンタリータッチで描かれていく。

 

憂慮したフーパー長官は生え抜きの捜査官をこの一味に潜り込ませ、常に捕まった犯人が保釈される金を調達する組織のボスを突き止めようと計画する。そして選ばれたのが判断力にも富む訓練生コーデルだった。

 

彼は、ボスと思しき人物がいる街にジーンの名で潜入し、裏社会で名前を売っていく。彼に近づいてきたのがボクシングジムを経営するアレックという男だった。ジーンはアレックに次第に信用され始め、ついに富豪の家への襲撃計画に参加するようになる。

 

ところが、ジーンが警察に通報した情報が逆に警察からアレックに連絡が入り、襲撃が中止になる。襲撃準備の段階で、アレックの使う銃などのありかを知ったジーンは、なんとかその弾倉痕を手に入れることに成功、アレックが犯人だと証拠を固めるが、自分の銃が見つけられたと知ったアレックは、警察内部の知り合いに銃の指紋を調べさせ、それがジーンのものだと知り、裏切り者として始末する計画を立てる。

 

クライマックスは、ジーンを巧みに警官に殺させようとするアレック達の計画と、真相が全て判明、アレックと警察の内通者を捕まえるべく現場に向かうFBIとのサスペンスとなる。このハラハラが絶品に近く、かつてはこの手のハラハラがある映画がいっぱいあったが、最近はとんとお目にかかれなくなった。

 

もちろん、ハッピーエンドで大団円を迎えるのだが、こういうすっきり感が映画の醍醐味だと思います。本当に面白かった。