くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「別れる決心」「シャイロックの子供たち」

「別れる決心」

ちょっと作り込みすぎたきらいはあるかもしれませんが、相当に面白いサスペンス映画でした。幻覚と現実を交錯させる前半部分から謎が明らかになる中盤、そして次第に二人の愛のドラマに変遷していく後半と組み立てられた映像と物語の面白さを堪能できました。監督はパク・チャヌク

 

ヘジュン刑事と同僚のスワンの射撃練習から最近の難事件の状況を語るところから映画は始まりる。ヘジュンは不眠症気味で、スマートウォッチに操作状況を録音する癖があった。まもなくして一人の男キ・ドスが崖から転落した事件を扱う展開となる。何事も自分で確かめたいヘジュンは、被害者が登った通りに崖を登る。このオープニングはいつもの韓国映画のコミカルさと稚拙な流れで軽く始まる。そして、被害者の妻ソレの捜査が始まる。ソレは中国人でまだ中国語が頼りなくスマホの翻訳ソフトで話すことが多かった。元看護士である彼女は介護士の仕事をしていてさまざまな老人の家に出入りしていた。ヘジュン刑事が執拗にソレを双眼鏡で監視していくうちに、まるでソレに寄り添うようにヘジュンが側でその行動を捜査していくかのような映像が繰り返される。

 

ヘジュンの妻ジョアンは釜山から離れた街イポの原子力研究所に勤める理系女子で、終末にやってくるヘジュンと一時の夫婦生活を繰り返している。その遠距離週末結婚を皮肉混じりに会話する。しかも、週一回はSEXした方が良いと体を合わせる。ドスの事件は、最初はソレが疑われたがアリバイがあるためおそらく自殺であろうという方向に流れていくが、ヘジュンはすっきりしなかった。ヘジュンとソレは近づくに連れていつの間にか心が通い始めていた。

 

ヘジュンがイポで妻と過ごしていた時、ソレから連絡が入る。火曜日に介護している老人が来て欲しいと頼まれ出かけるのだが月曜日に世話している老人のことが気がかりだという。そこでヘジュンが急遽駆けつけるようになる。ところがヘジュンがその老婦人のところに行くと、その老婦人はソレがくる日が月曜日だと思い込んでいる認知症の夫人だった。

 

ドス夫が亡くなった日のアリバイがあったことからソレの容疑が晴れていたのだが、たまたま月曜の老婦人の家にあったスマホから、ソレの夫が死んだ日に138階まで登っているという記録を見てしまう。そのスマホはソレが持っているものと同じ機種だと聞いていたヘジュンは、それのトリックを見破る。

 

早速事故が起こった崖に向かったヘジュンは、ソレがとったであろう行動を試す。そして夫の暴力に苦しんでいたソレは夫を殺すために夫が登った崖に別ルートから登り背後から夫を突き落としたことがわかる。しかしソレに想いを寄せるヘジュンはその真相をソレに話し、その音声ファイルを残したスマホを海に投げ捨てるように言う。そして13ヶ月が経つ。

 

ヘジュンは妻の勤務先の近くイポの町に住んでいた。夜、妻と散歩をしていてソレと再会する。彼女の隣には別の男がいた。今の夫だというソレにヘジュンは一抹の再開の喜びを隠せずにいた。まもなくしてソレの夫ホシンはプールで殺されて発見される。当然ソレが疑われるが、今回は詐欺を繰り返していたホシンが恨みを買って殺されたことがわかり。ところが一方で、ソレは中国から韓国に移る直前、母親を殺していて、中国に送還されたら殺人罪になることがわかる。ソレとヘジュンの心のつながりを察知したジョアンはヘジュンの元を去っていく。

 

ヘジュンは、ソレが海に捨てたスマホを手に入れたがそこには音声ファイルはなかった。ソレが持っている大元のスマホに残されていると思ったヘジュンは再度ソレに近づく。やがて二人の思いは再燃するかに見えたがヘジュンは刑事であることの一線を外れられなかった。やがてソレの行方がわからなくなり、GPSからソレの居場所を突き止めヘジュンが向かうがスマホは車の中にあった。そこには釜山での最後の夜のヘジュンの言葉が残されていた。

 

その頃、ソレは満ち潮を見越して浜辺に穴を掘り睡眠薬を飲んで自殺を図っていた。やがて潮が満ちてきてソレの姿は海の底に沈んでいく。必死で探すヘジュンが海岸にたどり着いた時にはすでにソレの姿は見えなくなっていた。こうして映画は終わっていきます。

 

真相を明らかにしていく小さな伏線の繰り返しが相当に複雑になってしまって、大体の流れはわかるのですが、細かい部分のなぜは繋がらないところが多々あります。登場人物、ストーリー展開を混沌とさせ、さらにミステリーとラブストーリーを巧みに入れようとした熱意が、かえって作品を複雑にしすぎた感じです。面白い映画なのですが、ちょっとやりすぎかなと感じる映画でした。

 

シャイロックの子供たち」

面白い。穴だらけの脚本とリアリティのなさ、展開の緩さを軽く流して仕舞えば単純なエンタメ映画としては気楽に楽しめる映画でした。おそらく、金融取引のリアリティや人間ドラマのぶ厚さやクオリティの高い作品作りなどそっちのけにして面白さだけ適当に追求したらこういう映画になるという典型でした。うまくまとめた感じです。監督は本木克英。

 

シェークスピアヴェニスの商人の舞台、それを観劇している黒田夫妻の場面から映画は幕を開ける。意味深なセリフの後、黒田がATMの金を抜き競馬に注ぎ込んで大穴を当ててATMに戻す場面になってタイトル。ここは東京第一銀行長原支店、この日もノルマ達成に副支店長以下の叱責が飛んでいる。ベテラン行員の北川は生意気な後輩半田の不貞腐れた態度に辟易としている。上司の西木はそんな彼女を宥めている。営業の田端はそつなく営業をこなしているが実は転職を考えている。営業成績の伸びない遠藤は追い詰められている。この日、鳴物入りで転勤してきた滝野の見事な営業成績に九条支店長らの賛辞が飛んでいる。窓口に、西木の飲み友達の沢崎がやってきて、くだらない所有ビルを見せて回る。

 

滝野の元に江本エステートから電話が入る。折り返し滝野が電話をすると、石本という前赴任店の得意先の取引先社長だった。不動産開発で穴が開きそうなので10億融資して欲しいと依頼される。気乗りしない滝野だったが、過去にリベートをもらったという弱みがある滝野は営業会議で案件不足で困惑する支店長らを前に、この融資を提案、早速九条支店長の陣頭指揮で案件が検討される。明らかに石本の偽造書類とわかる物を揃えて、滝野はそつなく案件を稟議書にまとめる。しかも、課長以下支店長に至るまでなんの疑念もなく通過する。

 

やがて10億の融資が実行されるがたちまち返済が苦しいという連絡を滝野は石本から受ける。とりあえずの返済金100万をつい田端の営業用の金を着服したことから事態は急変する。

 

100万円紛失で行員全員で店内をくまなく調べるが、何も見つからない。そんな時食堂で帯封を拾った半田は北川のカバンに入れ、北川が疑われる。店内ゴミを探していて、西木は江本エステート宛の100万円の振り込み領収書を見つけポケットにしまう。結局、100万円は支店長らの自腹でうまあわせしてしまう。

 

すっきりしない北川は西木に詰め寄る。その頃、江本エステートあての郵便物が返却され、それを見た田端がその郵便物の宛先に行ってみるとボロアパートしかなかった。おかしいと判断した田端は西木らを交え調べ、騙されたことを知り、九条らは滝野を責めるがどうしようもなかった。

 

10億円の不良債権を抱えることになった長原支店に本店検査部がやってくる。リーダーは黒田だった。黒田は九条に100万円の建て替えも含め詰め寄るが、実は九条は若い頃検査部にいて、黒田がATMの金を使って競馬をしていたのを知っていた。結果、黒田の取り調べもそつなく終える。

 

一方、西木は北川や田端と今回の不祥事に不信を抱き調べていた。そして、全ては九条支店長の仕業だとわかる。競馬にはまり離婚もし、金に困った九条は石本と結託して滝野を利用し大金を手に入れ悠々自適に退職を考えていたのだ。

 

さまざまな証拠を手にした西木らは九条らを逆に貶める画策を始める。沢崎の所有するビルを石本に紹介し、九条に協力させて決裁金を融資させようと考える。しかしそのビルは耐震偽装されていたもので、実質価値はほとんどなかった。順調にことが運び、やがて所有権移転、資金も決済されて取引は終わる。直後、ビルの設計士が警察に出頭したことが明るみに出る。この辺り、うまく書き込めばめちゃくちゃ面白くなったのに残念。

 

西木は沢崎から礼金をもらい、兄の借金の保証人になり闇金に追われていたのでその金で返済する。滝野は二年の懲役の日、家族に迎えられて出所する。なんとも甘い。黒田は人生の清算のために銀行を辞めてスーパーで働いている。九条は相変わらず競馬三昧、この日ヴェニスの商人を見に北川と田端が会場にやってくる。退職した西木を見かけた気がするがそのまま会場に入って映画は終わる。

 

では、前半で、精神的におかしくなった遠藤はどうなった?明らかに偽造印鑑証明を素通りさせた鹿島課長はどうなった?田端は転職できずどうなった?副支店長は?前半、物語を彩った人物や設定をすっ飛ばしてのエンディングは雑というほかない。B級レベルのエンタメ映画という仕上がりの一本ですが、うるさいことを言わなければ、単純に楽しめる映画だった感じです。