くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ペルシャ猫を誰も知らない」

ペルシャ猫を誰も知らない

イランの音楽活動をする若者たちの物語である。バンドが奏でる音楽が始まると映像が踊り出す。自由気ままに撮影されたバイタリティあふれるカメラワークは時にピント合わせさえも無視し、ピンボケのままにシーンが展開したりする。真正面からとらえるなどの構図はお構いなく、時には真横から映像が展開し、時には横長の画面の隅に人物が配置されたり、戸の隙間から写る人物がとらえられたりする。

型にこだわらないスタイリッシュな映像と、イラン音楽のようでかつモダンなリズムを持った心地よいアップテンポの曲にあわせて、画面が切り替わるおもしろさはまさにミュージカルのごとくである。

物語は、イラン国内では制約が多すぎるので、イランをでてロンドンでコンサートを開きたいと願う若者二人の物語。そこには、パスポートもとれず、日常の練習さえもともすると警察に逮捕されるという不自由な国柄が存在する。背後に何度となく映し出されるハイウェイは近代国家のごとくしつらえられた外観にも関わらず、そこかしこにある不自由さというちょっと、私たちからは想像できない社会の存在を目の当たりにしてくれる。

映画が始まると、病院の廊下を担架に乗せられて走る患者の視点で廊下の天井の蛍光灯が流れていく。場面が変わると、とある音楽スタジオから物語が始まる。
 国外にでて自分たちの音楽を演奏したい。この国では何かにつけ束縛されてしまうからロンドンへでたい。それに当たって、パスポートやビザが必要で手配できないかと相談する二人の男女ネガルとアシュカン。その面倒を見てコンサートを実現させるべく、パスポートなどの偽造屋ナデルのところへいく。
ところがナデルは彼らの音楽に心酔し、海外へ行く前に国内の許可をもらってコンサートをしようと提案、足りないバンドのメンバーを捜す手配をする。

あちこちで活躍する素人バンドたち。彼らもできればもっと自由な活動がしたい。それぞれの場所で奏でる音楽が流れると、画面は躍動感あふれるアップテンポの切り替えしで、次々と手持ちカメラ風のドキュメンタリータッチの映像が繰り返される。そのリズム感は見ている私たちを引き込んで思わずテンポを取ってしまう一体感を生み出してくれます。

ある程度のメンバーもそろい、いよいよと近づいてきたとき、パスポート偽造屋が警察に捕まってしまう。その様子を目の前で見たナデルは絶望の中姿をくらます。
連絡が付かなくなったナデルを探し出したアシュカン、しかしそこへも警察の手が。必死で逃げるアシュカンは窓から飛び降りてそのまま病院へ。ファーストシーンで運ばれていくのはこのアシュカンだった。そしてエンディング。

ドキュメンタリー風の演出に終始し、こだわった映像を特に取り入れずに、自由奔放に音楽のリズムに合わせるかのように描いていくカメラワークの妙味がこの映画の魅力で、斬新かつ初々しさが際だつ作品である。ただ、このジャンルの物語は私は苦手なので、映画の良さとは裏腹にのめり込めなかったことも事実である。