くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「地下室のメロディ」「嗚呼!おんなたち猥歌」

地下室のメロディ

「地下室のメロディ」

何十年ぶりで見直した大好きな映画。映画の話をするときに、特にアラン・ドロン作品やヨーロッパ映画の名作を語るときには必ず取り出すのがこの作品。それほど印象が深いし、ラストシーンの札がプールに溢れる名場面は思い出すだけでも寒気がする。

しかし、初めてスクリーンでみたのはまだまだ学生時代だったか、果たしてこの映画の真のすばらしさを理解していたかどうか?

そして今回見直して、納得しました。アンリ・ヴェルヌイユという監督がこの作品で見せたすばらしい演出。それは横長のワイド画面にも関わらず、奥の深い縦の構図を頻繁にとっていることである。しかもそれがこのフィルムノワールの世界で抜群の効果を生みだしている。

冒頭、ジャン・ギャバン扮するシャルルが刑期を終えてパリへでてくる。雑踏の町、ところ狭しと車や人が溢れている。しかし、刑務所にはいる前はここはのどかな土地で、それが好きで家を買ったことを語る。時の流れを空間演出で見事に見せるファーストシーン。

そして、なんといっても、アラン・ドロン扮するフランシスがカジノの屋上へ通ずる舞台裏のはしごを眺めるショット。遙か上からアラン・ドロンを見下ろしたカメラアングルはまるで絶壁の彼方から見下ろすがごとくものすごい奥行きのある構図である。さらにそれに続く垂れ下がる縄の隙間から画面の隅にアラン・ドロンをとらえるショットなども見事。おそらく超広角レンズによるものだと思われる。

さらに随所にみられる鏡と現実の会話の場面の融合、幾何学的な隙間からとらえる人物などのショットが見事な緊迫感を呼ぶ。

そして、なんといってもうならせるのがラストシーンである。
プールの脇のモニュメントの丸いくりぬきの彼方に鞄をもったアラン・ドロンがやってくる。そしてプールに金の入った鞄を持って座るフランシス。反対側にはジャン・ギャバンが新聞を広げて座る。かたわらに刑事の声。

刑事たちが被害者に犯人の様子や鞄のことを訪ねる下りがつぶやきのように聞こえてくる。しかも、それが総て目の前のジャン・ギャバンアラン・ドロンがもつ鞄のデザインそのものなのだ。そして犯人であるアラン・ドロンにはマイクで語りかけるように響くという緊迫感。そして、次第に高まる緊張の中、アラン・ドロンの顔がクローズアップされ、たまらなくなったフランシスは鞄をプールの中に隠す。

ところが、プールに水か注入され水がかき回されると、鞄の口がゆるんで札が浮かび上がりやがて水面いっぱいになるという名シーンへつながる。スクリーンいっぱいに広がった札をバックにFINの文字。まことに何度見ても見事なシーンである。何度見ても名作は名作と呼ばざるを得ない一本でした。


「嗚呼!おんなたち猥歌」
神代辰巳監督作品としては後期に属する。
とはいえ、見事な映画でした。ひとえにおもしろい。それはストーリー展開のおもしろさもさることながら実に巧みに笑い飛ばすようなバイタリティあふれる演出が施されているところでしょうか。しかも演じる内田裕也、角ゆり子、仲村れい子、安岡力也など誰も彼も個性満載で約側を演じているさまはまさに、ある意味日本映画の黄金期かもしれない。

映画が始まると、神代作品の常道でもある舞台シーン。場末のクラブでしょうか、ロックの舞台が熱く行われている。風俗嬢をしている佳江(角ゆり子)から迫られている主人公のジョージ(内田裕也)、売れないロック歌手の彼がこの映画の主人公のごとく映画が始まる。

結婚を迫られたジョージはなんとも適当な返事をするので佳江が車のハンドルをむちゃくちゃに握ったため事故を起こす。病院では看護婦羊子(仲村ゆり子)とSEXをし、そのままいい仲になってしまうジョージ。女と見れば抱きつく癖の悪さに嫉妬で狂いそうになる佳江であるが、それでも彼を忘れられない。

しかし、この映画のおもしろさは中盤以降である。次第に物語の中心はこの羊子と佳江の女たちの話へと流れが変わり始める。バカを繰り返すジョージはただのお馬鹿な男西か見えなくなって来るのである。そして、したたかに仲良く振る舞い始める佳江と羊子がどんどんストーリー展開を牽引し始め、一方でますますなさけなくなるジョージ。しかしそんな展開にもかかわらずこの映画がしっかりとしているのはまさに内田裕也の圧倒的な存在感ゆえであろうと思います。

やがて、安岡力也扮するマネージャーのい恋人に手を出したジョージが訴えられて牢にはいると、完全に羊子と佳江がレズビアンのごとくくっついてしまう。出てきたジョージはその様子を見て何とも寂しげに座るクライマックス、さらに、ロック歌手をあきらめたのかホスト倶楽部に入り、冒頭で佳江が演じたトルコでの阿波踊りを自ら演じて、自分を買ってくれた女にサービスする姿で映画が終わる。なんとも拍手喝采のエンディングである。

つぶやく演出や、演歌が流れる神代節は今回は影が薄いが、バイタリティあふれる映像で見せる女の情念、男のふがいなさは見事にスクリーンから伝わってくる。何度も核が、脇役の安岡力也も実にいい味を出している。これこそ傑作の一本と呼んでも良いと思います