くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「津軽百年食堂」「ファンタスティックMr.FOX」

津軽百年食堂

津軽百年食堂」
様々な人の評価はありますが、私は大森一樹監督の演出感性は見事なものだと思う。
物語はたわいのないものであるし、平凡な監督が演出すれば平凡な映画になるだろう。しかし、彼が作るとなぜか心に訴える不思議なリズムが備わってくる。だからなぜか感動してしまうのです。

物語は簡単です。地元で100年近く営業するそば屋を飛び出して東京で風船のパフォーマンスをして暮らす主人公陽一。ある日彼は同郷で地元で写真館をしていた家族の娘七海とであう。彼女は桜の写真をとったプロカメラマン浅尾に魅せられて彼の弟子として上京したのだ。

出会うべくしてであった二人は、陽一は地元で父が交通事故にあったことで郷里に帰ることに、そして七海は交際相手だったプロカメラマンが倒れ、本当の妻の愛情あふれる姿を見て、自分が寂しくなり郷里へ戻る。

郷里へ戻れば陽一には暖かい家庭、幼なじみたちが迎えてくれ、都会とは全く違う落ち着きを感じる。一方の七海も、懐かしい父の写真館を訪ね、郷愁にかられる。

やがて、桜祭りが近づき、例年恒例のそば屋の出店に全員が一丸となっていく中で、ふるさとに戻る決意をするという物語である。

陽一と七海のそれぞれの物語、さらに、大森食堂が生まれた明治中期の時代を交互にフラッシュバックしながら、不思議とつながっていく人と人の心のつながりを見事な感性で描いていく演出の見事さは今時の監督にはない大森一樹ならではの個性であると思う。

ラスト、父の写真館を再興すべく壁にペンキを塗る七海とそれを手伝う陽一。さりげなくプロポーズする陽一の言葉にさりげなくほほえんで、タイトルがかぶる。この絶妙のエンドタイトルが見事である。


「ファンタスティックMr.FOX」
ストップモーションアニメで描く狐と人間の楽しい寓話のような、それでいてどこか風刺の効いたコメディ作品で。昨年、様々な賞に輝いた映画である。

宣伝の頃から、非常に期待していたのですが、期待しすぎたのか、今一つリズム感に乗り切れませんでした。
めまぐるしくしゃべる主人公たちの掛け合いのおもしろさ、次々とコミカルに展開するストーリーの軽やかさがとにかく楽しいのですが。

ストップモーションアニメのかくかくした動きが物語のテンポに独特の味わいを生み出し、加えていくという演出のおもしろさは、最後まで決して飽きさせない楽しさがあります。

が、ストーリーが今一つ最初から最後まで平坦すぎるのです。
出だしの泥棒に入る下りから後半の従兄弟を助けにいく下りまで、いずれも同じリズムなのです。そのため、だんだんと盛り上がってくるおもしろさが物足りない。

確かに、映像はちょっと大胆に豪快に変わっていくのですが、今一つ盛り上がりに欠けたのが残念。
非常におしゃれで、モダンな画面と美しい色彩も見所満点なので、決して見て損のない映画でしたが、もう一歩ほしいですね