くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「蘇える金狼」(村川透監督版)「野獣死すべし」(村川透監督

kurawan2016-08-16

蘇える金狼」(村川透監督版)
ビデオでしか見たことがなかった、角川映画の代表作の一本。角川映画祭でようやくスクリーンで見ることができた。監督は村川透。なるほど、村川透らしい、B級アクションのテイストと、角川映画の大作主義が微妙にマッチングした出来栄えになっている。悪く言うと、かなり終盤間延びしているのが気にかかるが、まだまだ映画にロマンがあった頃の一本だと楽しむことができた。原作は大藪春彦である。

しがないサラリーマンの朝倉は、実は夜は体を鍛え、巨大資本の乗っ取りを企んでいる。映画はこの主人公が、現金搬送している男を襲って一億円を奪うシーンから始まります。そして自分の勤めている会社の不正を逆手にとって、裏社会を通しながら次第に中心に迫って行くのが本編になるのですが、四分の三あたりまでは実によくできたピカレスクロマンながら、終盤、一旦会社の株を手に入れ、さらに乗っ取り屋が登場し、社長の令嬢を手に入れたあたりから妙にダラダラと間延びしてくる。

結局、かつての女に刺されてしまうのですが、それでも必死で海外逃亡のための飛行機に乗って、「ジュピターはまだ着かないのか」とつぶやいて死んでいくラストは本当にロマンの世界で寒気がしてニンマリしてしまいます。このラストを見ただけでも、この映画の値打ちをつかんだというものです。今の映画に一番欠けているのがこのロマンでしょうね。

確かに少々の間延びはするとはいえ、全体に流れる独特の世界は村川透全盛期の空気であり、カリスマ的な松田優作の演技とも重なって、見応えのある映画である。やはり角川映画の日本映画への功績は素晴らしいものだと思います。見て良かった。


野獣死すべし」(村川透監督版)
こちらはなかなかの佳作。絵作りといい、全体に流れるシュールなピカレスクといい、見せてくれる映画でした。最初に見たときは、これほど引き込まれませんでしたが、作品全体に、主人公の狂気がほとばしっていて、圧倒されてしまいました。とにかく、松田優作の鬼気迫る演技が最大の見所でしょう。監督は村川透です。

主人公伊達が一人の刑事を雨のなか殺害し、そのまま銃を奪い、裏賭博をしている中華店に押し入り三人を撃ち殺して金を奪うところから映画が始まる。いかにも、ピカレスクロマン、大藪春彦の世界である。

戦場を渡り歩き、そのなかで、精神に異常になった主人公は、社会に反抗するべく、銀行強盗を計画。相棒に真田という男を迎える。一方で、クラシックコンサートで知り合った女、令子にもほのかな想いを抱くが、銀行強盗で押し入った銀行にたまたまいたために撃ち殺してしまう。

伊達を執拗につけまわす刑事の存在など、いかにもなったノワールの世界が展開。次第に狂っていくようになる伊達が、最後は幻想のなか、戦場にいるかの錯覚を起こし、相棒さえ撃ち殺す。

コンサート会場、気がつくと眠っていた伊達は一人会場を後にするが、出たところで、撃たれて倒れてエンディング。

隠れ家での別荘のなかの伊達と真田のシーンの絵作り、列車内での刑事との駆け引きなど、見せ場もたくさんあり、ラストまで飽きさせない面白さがある。

虚空を見ているような松田優作の目の表情がとにかく恐ろしく冷たく異常で、寒気が漂う空気がすごい。なかなかの一本だったのだと改めて感動してしまいました。