「ローラ」(ジャック・ドゥミ監督版)
恋が溢れている素敵なラブストーリーの珠玉の一編。とにかくおしゃれでロマンティックなヨーロッパ映画の世界観を堪能できる名作ですね。監督はジャック・ドゥミです。
海辺の町、物語が幕を開けると一人の男性ローランの姿、彼はかつて初恋を経験したローラという女性を今も思っている。彼はとある本屋さんで母娘の親子と出会う。娘は英語の辞書を探していて、たまたまローランが持っているからと届ける約束をする。母親はこのローランの好感度に惹かれて恋に落ちる。
ローランは、寝坊して仕事に遅刻をしクビになったところ、ある人の紹介で、何やら怪しい仕事を請け負うことになり、近々南アフリカに立つ。
この港町で流れのダンサーをしている女性がいる。彼女こそがローラで、彼女に熱を上げている一人のアメリカ人水兵がいる。彼もまた近くシェルブールに旅立つ予定で、ローラに言い寄っている。ローラには一人息子がいて7年前に出会ったミシェルというアメリカ人との間に生まれたのだが、彼と別れ、でも未だに彼を思っている。
そんなある日、ローランは街でローラに会い、恋が再燃、アメリカ人水兵と一緒にいる姿などに嫉妬したりもする。そして、今尚ローラのことを思っていると告げるが、ローラには別れたミシェルのことが忘れられない。
本屋で知り合った母娘の親子の娘がたまたま街でローラを思っている水兵と親しくなり、誕生日に遊園地に一緒に出かけ、この娘はすっかりこの水兵に心を奪われてしまう。この初恋のエピソードもとっても素敵。
恋が画面いっぱいに溢れてくるこの展開が最高に素敵で、やがて、終盤、7年ぶりにミシェルが帰ってきてローラとハッピーエンド。ローランは南アフリカに旅立つ。水兵に惹かれた娘は一人シェルブールに旅立ってしまう。その母親はローランに娘のことを告げる。
何もかもがこれからの物語を予感させながら、散りばめられた恋の物語は次の段階に進んで行くラストがとにかくロマンティックです。
フランス映画らしい軽いタッチの音楽と、肩のこらないカメラワークのセンスが抜群の一本。こういうしゃれた映画が近頃見ることはなくなったけれど、こういうたわいないのに、ぎっしり詰まった夢の世界を堪能できるのがとにかく素晴らしいひと時でした。
「幼な子われらに生まれ」
良かった!とにかくラストは涙が自然と溢れてきてしまいました。冷静に振り返れば、荒井晴彦の脚本が抜群にいいのでしょう。見せ方、語り方が観客の心掴んでしまうのです。そこがすごいし、大好きな田中麗奈の演技がものすごくいいし、宮藤官九郎の背中で見せる哀愁もたまらない。浅野忠信の飄々とした存在感が物語をオブラートのように包み、三島有紀子監督の繊細な演出が子供達の姿を引き立たせてくる。久しぶりに前のめりになる日本映画の新作に出会った感じでした。
遊園地の入り口で別れた妻との娘と主人公田中信が会うシーンから映画が始まる。今は新しい女性奈苗と結婚し、その連れ後の娘二人と一緒に暮らしているが長女薫とどうも最近ギクシャクしている。奈苗のお腹には信との子供がいる。
信の元妻はキャリアウーマンで、考え方の相違から離婚、今はその元妻も別の男性と結婚しているが、末期がんであることがわかる。奈苗の元夫はDVだったが、長女薫は最近、何かにつけ本当の父親に会いたいとごねるようになり、信をやたら嫌う。どうやら生理が始まったらしい描写が見られ、揺れている心の不安が 見事に描けているのである。
次女や信の別れた妻との娘がいかにも屈託のない良い子なので余計に薫が際立つ。
子供が生まれればなんとかなると考える奈苗の存在感もどこかめんどくさい女性という空気をかすかに見せる田中麗奈の演技力で抜群の存在感を生み出すのがこれもすごい。
薫のわがままに応えるため信は奈苗の元夫に会い説得する。この夫が宮藤官九郎なのだが、いかにもヒゲもじゃのままで嫌な男を演じていたのが、薫と会う約束のデパートの屋上で待つ場面で、ピチッとスーツで決めて待つ姿に思わず涙が溢れて止まらなかった。
結局薫はその場に行かず、様子を見に行った信と次女は声をかけるのだが、その後、薫へのプレゼントを託して去る宮藤官九郎の後ろ姿もたまりません。
父親と娘のなんとも言えない繋がりがこの後、信の元妻の結婚相手の臨終シーンでどんどん盛り上がってくる展開もまた素晴らしく良い。
ラストは、奈苗が出産して赤ちゃんが生まれる場面でエンディング。
薫はおばあちゃんの家に行くことになっているものの、分娩室の前でじっと信を見つめるカットで何かが訴えられている。
細かく突きつければアラもあるのかもしれないけど、とにかく、素晴らしい映画に出会った感じです。良かった。