くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「冬物語」「恋の秋」「はい、泳げません」

冬物語

身勝手極まりない一人の女の恋の行方を、まさに恋多きフランスの物語として描いていく一本で、延々と繰り返し行ったり来たりは正直イライラしてしまいました。監督はエリック・ロメール

 

フェリシーとシャルルはバカンス先で恋に落ちてひたすら仲睦まじくしている場面から映画は幕を開けます。いかにも惹かれあった二人の場面の後、駅でフェリシーはシャルルに連絡にための住所を伝える。そして五年が経つ。実はフェリシーはシャルルに間違った住所を伝えたために、シャルルは連絡を取れなくなっていた。フェリシーはシャルルとの間に生まれたエリーズという女の子とロイックという恋人と暮らしていたが、勤め先の美容院のオーナーマクサンスと不倫関係だった。

 

そんな時、マクサンスは、妻と離婚が成立したからヌベールの新しい店に一緒に行こうと誘う。フェリシーは、ロイックとあっさりと別れ、マクサンスの元へエリーズとやってくるが、美容院は繁盛していて、店と子育ての両立が厳しくマクサンスとフェリシーの関係は一瞬で冷めてしまう。何か違うと感じたフェリシーはパリの母の元に戻る決心をしてマクサンスに別れを告げる。

 

戻ってきたフェリシーは、図書館に勤めるロイックに再会し、ロイックと一緒にシェイクスピアの「冬物語」の舞台を見にいく。その帰りロイックの家に泊まり、翌日、フェリシーはバスで帰るが、そこでシャルルと再会する。シャルルの横には女性がいたがただの友達だと言われ、フェリシーはようやくシャルルと再会、エリーズもパパだと認め二人は母のところに帰ってくる。こうして映画は終わっていく。

 

なんとも身勝手な上に好き放題に男とくっつき別れるフェリシーの行動は受け入れが痛いが、一応五年経っての奇跡の再会で映画は終わるという皮肉でこれもありかと思う。クリスマスからの約一週間を一日ごとに物語が先に進みながらの展開は面白いし、この後波乱があるかもしれない余韻は面白いのだが、どうも女性に共感できなかった。

 

「恋の秋」

お節介好きの女たちが男どもを手玉に取って振り回すというなんともめんどくさい映画です。今ひとつテンポがよろしくなくて、ストレスに感じるくらいに間の取り方が悪い作品で、いつもならもっと軽快に会話劇が弾むはずが、視点がぶれる瞬間もある映画でした。監督はエリック・ロメール

 

父の死後葡萄農園を経営するマガリのところに親友で幼馴染のイザベルがやってくる。イザベルの娘エミリアの結婚式の招待に来たのだが、たまたまマガリの息子レオとその恋人のロジーヌと出会う。ロジーヌはマガリのことが女性として好きだった。

 

農場のことばかりで恋人もできそうにないマガリのために、ロジーヌは彼女に言い寄ってくる自分の高校時代の教師エチエンヌをマガリに紹介しようと画策を始める。一方イザベルは、新聞の結婚相手の紹介記事からマガリの相手を見つけようと、マガリのふりをして一人の男性ジェラルドと接触する。そして、それぞれはイザベルの娘エミリアの結婚式に合わせてマガリに男性を引き合わせるが、エチエンヌは最初から完全に失敗する。しかし、ジェラルドとマガリは葡萄園の話で気が合う。

 

たまたまジェラルドがイザベルと室内で二人きりのところを見てしまったマガリは、エミリアも街で二人が会っているのを見たことがあるということで愛人同士と勘違いしてしまう。しかし、イザベルは、帰りを急ぐマガリをジェラルドに送らせる。ところがイラついていたマガリは車の中でジェラルドにそっけない態度を取り、駅で下ろしてもらう。しかし、列車も来ず、タクシーで結婚式のパーティ会場へ戻りイザベルを問い詰めようと考える。一方、ジェラルドもことのしだいをイザベルに話そうと会場に戻ってくる。マガリがイザベルから真相を聞き、実はジェラルドに惹かれたと話しているところへジェラルドが戻ってくる。そして、今度また会うことを約束して別れる。パーティ会場では賑やかにダンスが繰り広げられていた。こうして映画は終わる。

 

面白いはずなのだがどこか微妙にテンポが悪く、見ている方が苛立ってしまう。画面が実に美しい配色がされているのでさすがにと思うのですが、女たちのお節介や会話がちょっとストレスに感じてしまう作品でした。

 

「はい、泳げません」

全く期待していなかったのですが、予想外になかなかの佳作でした。程よいコミカルシーンを散りばめたリズムが実に絶妙だし、物語の本筋を崩さずに丁寧に描いていく演出も好感。さらに脇役の配置も上手いし、主演の二人の存在感もほどほどで心地よい。久しぶりに良質な印象で見終わった映画でした。監督は渡辺謙作

 

主人公小鳥遊雄司は大学で哲学の講師をしているらしく、何事にも理屈っぽい。家に帰っても一人で、なぜか水泳を習おうとスイミングスクールにやってくる。コーチの静香に丁寧ながらも厳しく指導され始める。こうしてスイミングの生徒のおばさんたちのコミカルなツッコミから映画は幕を開ける。映画はここから、なぜこれまで泳げなかった雄司が泳ぎを始めることになったか、彼の過去、そして彼の苦悩、彼の恋がフラッシュバックも交えて次第に明らかになっていく。このさりげない淡々とした作りが実に上手い。

 

少しづつ泳げるようになる雄司だが、それにつれて過去の悲しい思い出が蘇ってくる。五年前、彼の一人息子は、家族で河原に遊びにきた時に川に流され亡くなっていた。雄司が助けようとしてうまく泳げず、岩に頭をぶつけてしまったのだ。妻の美弥子とは離婚しているのだが、この美弥子のキャラクターが不必要に陰湿な雰囲気で描かず、あっけらかんとした大阪弁で登場するのも実にいい。

 

雄司は、同じく一人息子のいる奈美恵と恋をしていて、二度と悲劇を起こしたくないと泳ぎを始めたらしい。一方、静香も過去の交通事故のトラウマをいまだにひきづっていた。このエピソードが今ひとつ生かされていないのは残念ですが、ここを強調するといかにもな人生ドラマになって凡作になったかもしれません。

 

しかし、とうとう雄司は、奈美恵との恋も諦めようとするのですが、ここで静香コーチが一押しして彼を前向かせると共に、実は自分も悪かったと美弥子も雄司に謝ることで雄司はようやく立ち直り、奈美恵に再度プロポーズして映画はハッピーエンドとなる。

 

とにかく、脚本の組み立てが絶妙に良くできているし、ありきたりにやりすぎない演出と描写、さらにCGによる絵作りの工夫、コミカルシーンの散りばめなどがうまくリズミカルに映画を展開させていくので、見終わってさりげない感動を残してくれます。ちょっとした佳作という仕上がりのいい映画でした。