「憐みの3章」
前作が群を抜いた傑作だったので、それなりに期待したが、結局、この監督にしか見えていない何者かは今回は若干俗っぽくなった気がしました。色彩映像の美しさは芸術的ですが、物語はシュールとはいえどこか身近に見えてしまった。三つの物語が一つの輪に閉じるラストは面白いし、役名を変えて同じ役者が演じるスタイルの独創性も楽しいので、映画を面白く感性を豊かにして見るということでは成功した作品だった気がします。監督はヨルゴス・ランティモス。
第一話R.M.Fは死んだ
一人の男が大邸宅にやってくる。セクシーな服装の女性ヴィヴィアンが出迎え、なにやら封筒を渡す。男の胸にはR.M.Fの刺繍がされている。カットが変わると夜の街の一角、一台の車にロバートという男が乗っている。そして車を疾走させ、交差点で走ってきた車に激突する。走ってきた車に乗っていたのはR.M.Fの男らしく、病院でロバートは目を覚ますが軽症、R.M.Fも命は助かったようである。
家に戻ったロバートは妻サラに迎えられる。夜にはアンナ・カレーニナの本を読んでいる。そして翌朝仕事に行き、レイモンドという男の家に行く。冒頭の大邸宅である。ヴィヴィアンが出迎え、レイモンドはロバートを迎え入れるが、何度も入室し直す。ロバートはレイモンドに頼まれて事故を起こしたようで、もうこれっきりにしたいと申し出る。レイモンドは、サラをロバートに引き合わせたのも自分で、アンナ・カレーニナを読むように勧めたのも自分だったことを説明して、ロバートも従ってきたことを伝える。ロバートは何事にもレイモンドに指示されないとできない人物だった。レイモンドは快くロバートを送り出すが、ロバートが翌日目を覚ますと、レイモンドにもらったマッケンローのラケットがなくなっていた。さらに、仕事から戻るとサラもいなかった。
ロバートはてっきりレイモンドのところにサラがいるとレイモンドの邸宅に行くが追い返される。ロバートは、レイモンドに逆らったため何もかも奪われてしまったと判断し、レイモンドを待ち伏せて謝ろうとするがレイモンドは受け入れなかった。ロバートは、かつてサラと知り合うきっかけになったバーに行き、サラの時と同じように怪我を装い、一人の女性リタに近づく。
ロバートとリタは親しくなり夕食に行く約束をするがリタは現れなかった。そしてリタが事故を起こしていけなかったことを知り入院先へ行くが、そこでリタの病室から出て来るレイモンドとヴィヴィアンを見かけ、ストレッチャーに乗ったR.M.Fを見る。ロバートはリタもレイモンドの仲間だと知り、リタがトイレに行った隙にリタの家の鍵を抜き取り、リタの家に行く。そこにはロバートの家から持ち出されたマッケンローのラケットがあった。ロバートは、病院へ戻り、看護師の服装を盗んで、R.M.Fを車椅子に乗せて駐車場へ放り出し、自分の車で轢き殺す。そしてレイモンドの家に行き、結果を報告、レイモンドは、ロバート、ヴィヴィアンと一緒にベッドにいて、ロバートを賞賛して第一話は終わる。
第二話R.M..Fは飛んだ
警官をしているダニエルの出勤の朝の場面から物語は始まる。リズという名の刻印のプレートを見つめる。どうやらリズというのは妻だが、海洋研究をしていて、海に潜ったまま行方不明らしかった。ロバートには親友ニールがいて、この日自宅に食事に誘う。ロバートは、かつて一緒に旅行した時のビデオをみようと言い出す。ニールは嫌々ながら承諾しビデオを写すが、それはニール夫婦とロバート夫婦の乱行の映像だった。四人は事あるごとにスワッピングSEXをしていたようだった。
ロバートは精神的に参っていたが、ある夜、無言電話の後、捜索隊からリズが見つかったという連絡が入る。リズは病院で体力を回復して自宅に戻る。ロバートはリズと一緒に出かけようとするが、なぜかリズは靴が小さくなって履けないという。飼い猫もリズを嫌っていた。ロバートの音楽の好みも忘れていて、嫌いなチョコレートケーキも食べるなど様々な所でおかしいと感じたロバートは帰ってきたリズは本当のリズではないのではないかと疑い始める。そんなロバートに医師は薬を処方する。
ある夜の仕事中、ロバートはいきなり発砲し、ニールがロバートを連れ戻す。ロバートは参ってしまって自宅で寝込んでしまう。リズは何も食べないロバートを献身的に世話をする。ロバートはリズに、リズの指とブロッコリーを調理してほしいという。リズは言われるままに自分の指を切り調理してロバートに出すが、ロバートは、指を猫に食べさせ、医師に、リズが奇妙なことをしたと説明する。リズは妊娠したが、結局流産、顔中あざだらけで病院へ行くが、ロバートからの暴力ながら愛しているふうなことを話す。
ロバートはさらにリズに、肝臓が食べたいと言い出す。ロバートが、ベッドを出て居間に行くと肝臓を取り出し生き絶えたリズがいた。そこへチャイムがなりロバートが出て行くとリズがいた。二人は抱き合って物語は終わる。
第三話R.M.Fサンドイッチを食べる
死体安置所、一人の女性が乳首と臍の長さを測ってもらっている。測っているのはエミリーという医師で、外にいたアンドリューという男性とその女性を解剖室に連れて行く。そこに一体の死体を持ち込んで、その女性の手を出して命を吹き込むように言うが、結局うまくいかなかった。エミリーとアンドリューは大排気量の車に乗り、オミという男の邸宅にやって来る。そこは何やら新興宗教のアジトのようで、アカという女性が体を舐めると、汚されていない純粋な女性だと見分けられるようだった。ここではオミとアカ以外の人間とSEXしてはいけないらしく、水を使って信者をコントロールしていた。エミリーらは手で触れるだけで死者を蘇らせる力のある女性を探すように依頼されていた。エミリーもアカによる儀式を翌日に控えていた。
街に出たエミリーは、元夫ジェームズと会う。そして娘と食事をしてほしいと頼むが、エミリーは約束したものの反故にしてしまう。エミリーは夢で、自分はプールに沈みその時に助けてくれた女性を探しているとアンドリューらに話していた。アンドリューとカフェにいる際レベッカという女性が近づいてきて、自分には獣医師をしている双子のルースという女性がいると言う。その場はエミリーらは相手にしなかった。
後日、エミリーは街でジェームズに会い、先日反故にされたこともあるから家に来てほしいと言われついて行く。ジェームズはエミリーの酒に睡眠薬を混ぜてエミリーを眠らせ、レイプしてしまう。汚されたと知ったエミリーは教団へ行き、アカらに、高熱のサウナに閉じ込めてもらって汚れを取り除こうとするが叶わず、エミリーは教団を追い出されてしまう。
エミリーは野良犬を怪我させてルースの病院へ連れて行き治療してもらう。そして、ルースにあった旨をレベッカのところへ行き話すが、レベッカは突然、空のプールに身を投げて死んでしまう。エミリーはルースの病院へ行き、ルースに麻酔薬を注射して拉致し、冒頭の死体置き場へ行く。そこでR.M.Fの死体に触れさせると、R.M F.は息を吹き返す。エミリーは新たな教祖を見つけたことで嬉々として車を飛ばすが、途中で事故を起こし、ルースは死んでしまう。こうして物語は終わる。
エピローグで、カフェでハンバーガーを食べる男の場面、彼の胸にはR.M.Fの刺繍が施されているのが写り映画は終わる。
何のメッセージかというものは何もないと思います。監督に見えている様々な世界を映像に昇華して行った感の作品で、ある意味、独創的なアート作品という感じの映画だった。好みかどうかといえば好みの部類に入る作品ですが、やはり出来不出来はかなりあると思います。
「ベイビーわるきゅーれナイスデイズ」
大好きなこのシリーズも三作目になって、池松壮亮、前田敦子を迎えてついにシネコン進出。例によって主演の高石あかり、伊澤彩織のコミカルな絶妙の掛け合いと、格闘技を組み合わせた迫力ある銃撃戦とのギャップの面白さで最後まで飽きさせない。とにかく主人公二人が絶対に強いという構図が良い。大作という貫禄はないけれど、こじんまりした秀作という出来栄えがとっても面白かった。監督は阪元裕吾。
少年二人が草原で遊んでいたが、一人が殺し屋に殺される。血だらけの殺し屋がもう一人の少年にハンカチを貰って映画は幕を開ける。例によって殺しの仕事をあっさりと片付けたちさととまひろは故郷の宮崎へバカンスにやって来た。ところが、本来担当だった殺し屋が急病で行けなくなり、まひろが誕生日だったものの仕方なく二人は宮崎県庁へ向かう。ところがターゲットの松浦を目の前した所で、彼に銃を向ける別の殺し屋冬村と遭遇してしまう。そして結局松浦を逃し、まひろは冬村に瀕死の重傷を負わされてしまう。その際、冬村は子供にもらったハンカチをまひろに贈る。
どうやら謎の殺し屋は単独ながら別の集団の一人らしい冬村という男だと知る。ちさとらの組織は、侮辱された冬村も倒すべく、宮崎現地のベテランスナイパー入鹿と七瀬が加わることになる。何かにつけて上から目線の入鹿に、ちさとやまひろは反抗的になってしまうが、四人で冬村と松浦を倒さんと居所を捜査、組織の宮内が冬村のアジトを突き止め、ちさとらが乗り込むが留守だった。そこで、冬村の連絡係広川を拉致し、冬村の行動を聞き出す。
一方、冬村は、関わっている宮崎の人殺し集団に決別し、自身について来るメンバーだけを集めて、ちさとらに迫って来る。ちさとらは冬村を迎え撃つべく待ち構え、最後の決戦となる。そして、大銃撃戦の末、冬村の仲間は全て倒して、ちさと、まひろらと冬村の決戦となる。身を挺してまひろを守ったちさとは意識を失い、最後にまひろは冬村と決戦、最後の最後でまひろの作戦勝ちで冬村を倒す。最後にまひろは冬村にハンカチを返すが、冬村は銃を選んだためまひろに撃ち殺される。
ちさと、まひろ、入鹿らは居酒屋で祝杯をあげていた。そして入鹿らは酔い潰れ、ちさとはまひろに誕生日のショートケーキをプレゼントして映画は終わる。
相変わらずの能天気な会話を繰り返すちさととまひろの掛け合いが最高で、さらに格闘技を交えた銃撃戦のアクションシーンはとにかく面白いし迫力満点。こういう娯楽映画を作れる日本はまだまだ大丈夫だなと気持ちよく劇場を出ることができました。