名カメラマン木村大作が描く人間ドラマとして、各界から期待の一本「剱岳ー点の記ー」をみる。
非常にまじめ、かつ丁寧な演出が行われているので、ある意味非常に平凡といえば平凡である。しかしながら、そんな想いで見続けていくとやがて、そのリアリティ、そのカメラマンとしての視点の見事さに、次第に物語の中に引き込まれていく。そして2時間を越える長尺も何の苦もなく見終わるのだから、作品のできばえは悪くなかったのだろう。
特殊撮影を一切使わず、実際の立山に登山しながら、目の前の自然の厳しさの中で撮影されたシーンの数々はまさに圧巻である。俳優たちの演技も、鬼気迫るほどの迫力で迫ってくるし、まるで、すべてが練習無しで撮った本番のみのワンカットであるかのような演技、そして、まるで俳優が演じていると思えないほどにリアリティあふれる登場人物たちの存在感、その辺りを見るだけでも、この映画にかけた木村大作の想いがスクリーンから伝わってくる感じがします。
陸軍本部でのやり取りの希薄さは少々目に余るものがあるし、ついでのように出てくる新聞記者の存在も果たして必要かと思える部分もあるのですが、全体の映画の構成のリズムは、さすがに黒澤映画の助手時代から培われた木村大作の体で覚えた感覚が発揮され、緩急織り交ぜたドラマでありながら、特に派手さのない展開を見事に見せてくれるのです。
剱岳での撮影の素晴らしさはもちろんですが、そのシーンを撮るためにカメラ機材が別の場所にあるということを考えると、この映画の製作にどれほどの困難があったのか計り知れないものもあり、それだけでもこの映画を見た価値があるというものかと思います。
木村大作が70歳を迎えるにあたり、映画人生最後という想いで意気込んだ大作ドラマ、見て損はないし、見ておくべき物語であるし、これが本当にリアリティとして心に刻むものではないでしょうか