「ザ・シューター極大射程」のアントワーン・フークワ監督作品なので長尺とはいえおもしろいと期待して見に行ったが、期待通り引き込まれてしまいました。エディ(リチャード・ギア)タンゴ(ドン・チードル)サル(イーサン・ホーク)の三人三洋の人生が交互に語られながら、黒人と白人の未だにはびこる差別社会を背景に、どんよりとした犯罪都市の様子がサスペンス色をふんだんに使った映像で展開します。
夜の町、横行する犯罪、気を抜けない警察官たちの日常、正義が正義でなく、信じるものが信じるものではなく、真実の存在があまりにもあやふやな世界が息詰まるサスペンス満載に描かれていきます。
映画が始まると、BK街と呼ばれる黒人たち低所得者層の住むブルックリンの街の一角。夜のネオンが遠くにしかみえない背景が実に殺伐としている。カメラはそこに止められた一台の車に吸い寄せられていく。中では、自分が行ってきた犯罪を自慢げにはなす男、その横にいるのはサル。一通りの話を聞いてやってから突然銃でその男を撃ち殺し、持っていた袋(中には強奪した金が)を奪って夜の町に消える。
突然ベッドで目が覚める男エディ。定年を一週間後に控えた老年の警官。悪夢にうなされる毎日も後わずかと、とにかく平穏に終えようとしている。しかし、その日一人の新米警官の指導に当たることに。その男は海兵隊上がりで正義感に燃えている。さりげなく毎日を過ごせというエディに不満で、後日指導員を変えてもらう。
ここに麻薬組織で潜入操作を長年こなしている敏腕の刑事タンゴがいる。その縄張りのボスキャズが刑務所をでてきた。長年の潜入で、次第に彼らとの間に人間的な感情さえも芽生え、警官さえも敵と見なすような感覚さえ芽生えてきている。そんな自分が耐えられず、早く潜入操作からはずれて元の部署に戻してほしいと上司に訴える日々である。しかし、そこに、キャズを逮捕するために新たな取り木に乃場を作るように命令が入る。今では友情さえも感じ始めたキャズを罠にはめることに悩み始めるタンゴの姿が悶々と描かれる。
妻を愛し、妻の病気と新たに生まれてくる子供のために新しい家に引っ越す金を調達しあぐねているサル。彼は捜査の途上にある金をくすねることでその資金を作ろうとしている。悪徳警官のごときであるがその目的は愛する家族を思うが故というあまりにも切ない理由がある。
そんなとき、エディが最初に担当した新米警官が殉職する。その知らせを見ているところへサルと被さるショットへつながり一言二言交わすがそれだけである。
それより少し前に該当でエディとタンゴが肩をぶつかってすれ違うシーンも挿入されているが、これもその後はない。
新しい新米警官ととあるコンビニの諍いに仲介に入ったときに、ふとしたことで新米警官が発砲。その場の黒人の耳をだめにしてしまう。その責任を自ら背負ったエディは早めの退職へ。
エディには黒人のなじみの娼婦がいる。密かに彼女に想いを寄せ、いずれはと思っているが、退職して彼女を訪ねると、その機はないかのようにあしらわれる。
エディはたまたま見かけた行方不明の女性が、黒人に拉致されて売春を強要されているのを目撃する。そして、その後をつけると、冒頭のBK地区へ。
一方のタンゴは、おとり捜査を断ったにもかかわらず、キャズが射殺されてしまい、何もかもを断ち切るべく警官のバッジを身につけキャズの仲間のレッズたちを射殺するためにBK地区へ。
そしてサルはたまたま中止になった突入捜査を単独で行い、その場の金を強奪しようとBK地区へ。
こうして、それぞれが同じ場所に集まってきてクライマックスを迎える。
カメラの展開、時に手持ちカメラによる躍動感あふれる映像があるかと思えば、ゆっくりと夜の街をとらえたり、背後に多彩な音楽を流してシーンを盛り上げたりと、この監督の手腕は全く見事なリズムであると呼べる。
BK地区に集まった三人。しかし、サルは突入したところで黒人たちを射殺、金を見つけるも、別の黒人に殺される。タンゴはレッズを撃ち殺すも、サルをくい止めるため追ってきた同僚の警官にちんぴらと間違われ撃ち殺される。エディはすんでの所で拉致されていた女性たちを助け、大勢の警察が集まってきたところでこちらにゆっくりと歩いてくるアップで映画は終わります。
サルには黒人の妻が、エディには愛する黒人の娼婦が、タンゴは自信が黒人であり、白人の上司に利用されている。それぞれの物語は全く交差することはないが、境遇が明らかに意図的に設定されているのがわかる。
原題は「BROOKLYN'S FINEST」’ブルックリンは素晴らしい’というような題名だろうか。何とも意味深な題名である。
黒人問題やら、低所得者層の問題が背後に潜ませているようにもみえるが、あくまで良質のサスペンスであり、緻密に練られたストーリー構成のおもしろさと、卓越した演出を楽しむ見事な作品だったと思います。本当におもしろかった。
ただ、ラストの落としどころはどうだろうか?