くらのすけの映画日記

「映画倶楽部シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アレクサンドリア」

アレクサンドリア

史劇というのは最近では珍しいのでちょっと期待して見に行きました。監督もアレハンドロ・アメナーバルでありそれなりの作品であろうと想像もついたからです。

物語は紀元4世紀ごろ、エジプトのアレクサンドリアに実在した女性の天文学者ヒュパティアの物語です。しかし、時に地球をはるか上空から見おろすようなカメラアングルがとられるところから、これはいわゆる神の視点から見た歴史の、いや人類の一ページであることが伺えます。

古の神をあがめる図書館を中心に栄えるアレクサンドリア。知識を重んじ、決して宗教に惑わされることなく生活する人々ですが、そこにはいつの間にかキリスト教の驚異が迫ってくる。そしてそれに伴って宗教は対立の手段となり、本来の観念などすべて人間の策略のために利用されていく。
やがて、古の宗教をあがめる人々とキリスト教とが対立。その争いの中でキリスト教徒が実権を握り、図書館の書物さえもがほとんどを失う。

そして数年後、今度はキリスト教ユダヤ強の対立の姿が描かれていきます。

歴史を繰り返しながら、人間のエゴが宗教によって争いを生み、そこに権力が絡んでくる構図を背景に、主人公ヒュパティアに影のように慕っている奴隷ダゴスの愛の物語、さらにはヒュパティアに恋いこがれる教え子オレステスの物語が語られていきます。このダゴス役のマックス・ミンゲラの演技が実に素晴らしい。ヒュパティアを恋いこがれながら奴隷であるが故に血かずけ無いもどかしさ。そして時に押さえきれない衝動に駆られるさりげない行動が実に微妙で見事です。

所々に彼女が地動説に気づき、やがて太陽の周りを地球が回る楕円軌道に行き着くまでの物語も丁寧に描かれて、リアリティある歴史物語の醍醐味も味わえるという展開が実に心地よいです。

彼女を慕う指揮官オレステスの存在、それぞれの愛の物語が次第に歴史の中で押しつぶされる様を見せるクライマックスが実に切なく、魔女として石で打たれる苦しみから逃すためにダゴスは静かに彼女の息を止めます。その行いに身を任せながら自らのしを受け入れるヒュパティアの姿が何ともいとおしい。そして、そんな彼女の運命を救えなかったオレステスの悲劇もまた切ないラストでした。

カメラが大きく俯瞰でアレクサンドリアをとらえ、エンディングに向かう大胆なラストシーンが実に印象的な作品でした。