この手のお気楽な娯楽映画にできばえがどうとかこうとか言って作品分析するのはどうかと思うのですが、正直前3作までのこのシリーズに比べて一番こじんまりした作品でした。まず第一に物語の構成が実に練り込み足りない。’生命の泉’を求めていくバルヴォッサ船長、黒ヒゲ海賊とアンジェリカ、それにジャック・スパロロウという展開が今ひとつブツブツと取り合わせたような組み合わせでストーリー展開していく。全くそれぞれが描き切れてない上にいつの間にかクライマックスで一つに集まってきて大乱闘シーンというのが実にスケールが小さい。
前3作で一応一段落したシリーズの新たな展開としての主要人物の紹介が中心であったのかもしれないが、それにしてもすでに3本のヒット作品が公開されているのですから、ここで何もかも一からという演出はちょっと芸がなさ過ぎる。アカデミー賞監督ロブ・マーシャルが前作までのゴア・ヴァービンスキーに代わったということでロブ・マーシャルの自負がなした弊害であったのかと思わなくもない。これといって受賞歴のないゴア・ヴァービンスキー監督ではなく私はアカデミー賞監督なのだと言わんばかりの意識がどこか見え隠れするのである。
そう思うのは、時々見せる目の覚めるような美しいショット、とってつけたようなジャック・スパロウのコミカルなシーン、それにバルヴォッサ船長など主要な悪役のどこか悪役足りない描き方にどうも中途半端感が隠しきれない。
新シリーズの要になりそうなアンジェリカ(ペネロペ・クルス)や神父と人魚の恋物語もあまりにとってつけたような、しかも描き切れていないキャラクター達の個性がなんとも良くない。
さらに、なぜ?というような展開も見え隠れする。それは明らかに脚本の練り足りなさである。いったい、イタリア海軍はどういう立場で’生命の泉’を目指してきたのか?しかも、突然、目的地にたどり着いているし、聖杯も手にしているし、一方のジャック・スパロウが地図を手にしていたいきさつからたどり着くまでの謎解きのような面白さも全くスケール感がない。だからジョニー・デップの魅力も半減。どうにも目も当てられない結果になっている。
二時間半近くあるにもかかわらずあれだけ物足りない描き方しかできないのでは今後が心配である。人気シリーズ失速になりかねないのではないだろうか?
個人的には第二作目の「デッドマンズ・チェスト」が一番おもしろかった。