くらのすけの映画日記

「映画倶楽部シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「テーマ〜田舎の出会い〜」「愛と誠」

テーマ〜田舎の出会い〜

「テーマ〜田舎の出会い〜」
ネットで調べてもおよそ資料というものがでてこないにもかかわらずベルリン映画祭金熊賞受賞の埋もれた傑作と呼ばれている一本がこの映画。

という前知識でみたのですが、いかんせん退屈だった。ソビエト映画というのはほとんど雪原の雪景色を背景に展開する。この作品も主人公の戯曲作家キムが車でモスクワから田舎にやってくるところ、雪景色の中を走るショットから始まる。

全編、キムの自問自答によるせりふが延々と続き、時にカメラを据え付けた長いワンカットが挿入される。ほとんど画面に動きのない展開で、非常に演劇的な凝ったせりふによる一人称のせりふの数々を追っていくも空間的な移動はほとんどない。

どうやら、体制に迎合してきた作家活動に反旗を翻したいがそれもままならないという内容のようで、導入部で、右折禁止を無理矢理右折し警官にとがめられ、意味もなく反抗する下りはちょっと他国の人間には理解しづらい部分もある。

結局、墓地で知り合ったサーシャという女性の家に行ってみると彼女には愛人がいてその男は他国へ亡命するつもりらしいせりふの後、サーシャが気絶した時にその家を出て、モスクワへ帰る決心をしたキムは一人車を走らせる。

しかし、思い直してUターンしたところで画面からフレームアウト。事故を思わせる音がして、カットが変わると横転した車、電話ボックスからサーシャに電話をかけるキム、車が爆発する音。キムが気を失い、そこへ警官が到着、キムを抱き抱えるところで暗転、エンディングになる。

この終盤まで淡々とした静かな演出が最後の最後で劇的なラストを迎える。結局、どうしようもなくなる一人の人間の姿を沸々と心の底にわだかまる思いを押さえ込んだ末の悲劇として締めくくる。低レベルの映画ではないのですが、あまりにも抑揚が押さえすぎていて息苦しい。これがソビエト映画の個性と理解して良質な一本を鑑賞した読後感のような感覚で締めくくってしまう一本でした。

「愛と誠」
三池崇史が作り上げた名作マンガの歌謡パフォーマンスの傑作。普段映画を見ない人は是非この映画を見てほしい。映画ってこんなに可能性があって、楽しいものなのです。

かつて映画化された作品は西城秀樹早乙女愛のいわゆるアイドル映画だった。しかし、ここにきて映画、娯楽、エンターテインメントとして昇華されたとっても楽しいものができあがった気がします。

どでかい太陽のような目をバックに太賀誠がすっくと立ち「激しい恋」を歌いながら踊り暴れ回る。いかにもお嬢さん学校の校庭。これまたきらきらした早乙女愛が「このすばらしい愛をもう一度」を踊りながら、歌い、ほほえみかける。伊原剛志が「オオカミ少年ケン」を叫びながら襲いかかる。自分もこんな世界に飛び込んで一緒に歌い、踊り、暴れ回りたい。これがエンターテインメントだ。

さて、ここで冷静になってみよう。映画の出来映えは?ちまたの評価もあるけれども、ほんのわずかに、そうほんの0.0000?%のテンポが良くない。そのために笑うべきところでタイミングがずれ、せっかくのシーンごとのリズムがかみ合ってこない。武井咲だけがきらきら光っていて、ほかの登場人物がちょっと霞みすぎているのがほんのわずかに残念。でも、武井咲をロープで縛ったり、猿ぐつわをはめさせたり、セーラー服を着せてみたり、メイド服を着せるという三池監督のお遊びも徹底してるしそれに応えた武井咲もいいと思う。

そして、この映画を批判する人は決して的外れな批判はしてほしくない。こういう映画を今の若手は作れないことは確かなのである。それだけでもこの映画の価値は並々ならないものがあると思う。

と、いろいろあるとはいえ、とにかく楽しい。ラスト、母親を立ち直らせた?のか、その後早乙女愛のもとに駆けつける途中でナイフで刺された太賀誠がそのまま早乙女愛を抱いてエンディングは泣かせる。それまで遊びきっていた演出をこの期に及んで思い切りシリアスに締めくくる。これが映画。これが娯楽。三池崇史さんやってくれましたね。

完璧に近い映像芸術といわんばかりの傑作ももちろん評価すべきですが、こんな本当に楽しい映画をもっともっと評価すべきだと思います。私は大好きです。できればもう一度みたい。