くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「かぐや姫の物語」「キャプテン・フィリップス」

かぐや姫の物語

かぐや姫の物語
ジブリ高畑勲監督が、14年ぶりに手がけた作品と言うことであるが、万を期しての発表にしては、いったいこのレベルはなんなのだろうと思えるアニメーションでした。確かに厳しい第一印象かもしれませんが、時代の流れをほとんどつかんでいないように思えるのが何とも残念。

ほぼ毎年のように発表している宮崎駿監督作品と、その感性のレベルにずれがでてきたように思えます。

とはいっても、水彩画の色彩で描いていくアニメの世界は、素朴な中に現代的な美しさも兼ね備え、その中で繰り広げられるあまりにも有名な「竹取物語」の世界は、一級品の味わいがあります。しかし、物語自体がオリジナルのストーリーをほぼ踏襲し、そこに加えられた、かぐや姫が犯した罪にたいする言及は、捨丸というキャラクターとのからみの中で、わずかに見え隠れするだけにしか見えないのが、ちょっともの足りません。

竹林で幼いかぐや姫を見つけ、みるみる育っていく中で時の流れがすぎていく導入部のシーンと展開は実に鮮やかなのですが、竹取りの翁が、姫を授かった意味を察し、都へと向かっていくあたりから、物語が、ちょっと俗っぽさと汚れが見えてくる。もちろん、オリジナルが、そういう展開なのはわかる気がするのですが、ここからが、高畑勲の実力を見せるところなのではないでしょうか。

そして、オリジナルのストーリーを丁寧に押さえていく中盤から後半が、実に普通になるのです。すでに水彩画の如し画面に目新しさがなくなってしまい、どんどん普通の物語へと突き進み、クライマックスに月からの迎えがやってきて去っていく切ないラストシーンは、ほとんどオリジナリティもない、いとも簡単にすませてしまう。

ハイクオリティの作品であることは認めるのですが、それは長い時間をかけた上での完成度にしか見えないのが本当に惜しいのです。

ジブリの双璧の一人である高畑勲監督だからこそ、求めるべきものが大きい。ただ、それだけが残念な作品でした。


キャプテン・フィリップス
実話を元にした作品なので、結果は分かっているとはいえ、かなりおもしろい映画でした。いや、傑作だったかもしれません。

トム・ハンクスは主演男優賞ものの見事な演技でした。さらに、細かいカットと、手持ちカメラを駆使したポール・グリーングラスの演出も見事だし、物語の配分を的確構成したビリー・レイの脚本も見事でした。

よくある救出劇のお話かと思って、気楽にみはじめたのですが、映画が始まって、数分したらもうスクリーンから目を離せないほどに引きつけられていました。

主人公フィリップスが自宅を出るシーンから、船に乗り込むまでの場面を描く一方で、ソマリアで軍のボスから、海賊行為を強制されて、ムセという一人の若者が、メンバーを率いて出かけるまでの導入部から、一端は追跡をかわしたフィリップス達に、再び迫るムセ達の場面、そして、乗り込まれ、貨物船の中での緊迫感のあるシーンが続く中盤、そして後半、救命挺に乗り込んだフィリップスと海賊達、そして、アメリカ海軍との鬼気迫る丁々発止のやりとりと、息詰まる心理戦。そして、ラスト、一気に解決されてから、狂ったように救い出されるフィリップ巣の姿。全く、気を抜く場面がひとときもないのです。

特筆するのは、敵方のソマリアの海賊達が、差し迫った状況で、やむなく海賊行為をしているという心理状態が見事に描かれていることである。ただの途上国のならずものとして描いていない点が見事。
サスペンスフルなアクションの形なのであるが、それぞれの人間がしっかりと描けたことが、この作品を非常にハイレベルな完成度に仕上げています。

クライマックスで、死を覚悟で、フィリップが家族に遺書を書く場面はもう、手に汗握るとはこのことである。

久しぶりに堪能する傑作に出会った気がします。これで、嫌いなトム・ハンクスでなかったら、大拍手なのですが。