「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」
おもしろい内容だし、ワンシチュエーションで、登場人物も一人、ただ電話との会話を続けるだけ。リアルタイムの86分。
確かに、この手のパターンは今までなかったわけではないが、なんだろう、もう一歩サスペンスフルなものがあってもよかったのではないかと思う。監督はスティーヴン・ナイトである。
ある工事現場、明日の朝にはヨーロッパ最大の生コン注入が行われる現場である。そこから一人の男アイヴァンがでてきて車に乗る。むかうのはたった一夜の過ちで関係を持った女性ベッサンが出産することになり、その病院へ向かうことになったのだ。
一方、彼は、今夜、家族とサッカーの試合を見る予定だったが、まずそれをキャンセル。さらに現場の段取りを任せるために、頼りないドナルに電話で引き継ぐ。
こうしてハイウェイを走らせるアイヴァンと次々かかってくる電話、そしてそれぞれのトラブルに対処しながらのサスペンスが展開する。
しかし、女性の出産、妻カトリーナとの問題、工事現場の段取り、どれもが、際だった規模の差が見えない。どれもが同じレベルのトラブルに見え、それが、かえって緊迫感をそぐような気がする。
もちろん、どれもがアイヴァンにとっては大変なことなのだが、果たして、そんな巨大プロジェクトを放り出してでてきていいのか?出産に駆けつけることが最優先されているが、なにか優先順位が矛盾していないか?家族との問題をそっちのけにしていいのか?何かが、この脚本には無理があるというか、リアリティが欠如しているのである。
もちろん、フィクションなのだから、すべてリアリティが必要なことはないが、何かがおかしいために、展開に時として退屈さを覚えてしまう。ひっくり返すような大胆な設定で始めるなら、何かが間違っているような気がする。結果、おもしろくなるはずが、不完全燃焼のような読後感におそわれた。
結局、ベッサンが赤ん坊の声を聞かせて、終わるのは、どうなのだろう。そんな映画だった。
「支那の夜」(総集編)
1940年製作の映画であるが、戦後70年たった今も、上映している劇場を立ち見同然に満席にする。これはもう映画遺産と呼ぶべき映画であると思う。
もちろん、映画のクオリティは大したことはないし、ストーリーもシンプルで、戦時中の国策映画である。李香蘭は日本人であることを隠して中国人として出演、日中の親善のために画策された作品である。それが彼女にとって、痛恨の一本となった映画である。
とはいえ、名曲となる挿入曲「支那の夜」「蘇州夜曲」はいまだに、当時を知る人々の心に残っている。だから、満席になるのである。その意味で、映画の力、映画の持つ意味のすばらしさが実感できて、思わず胸が熱くなってしまいました。
上海のバーで日本人に絡まれた一人の女性を救った日本人の長谷。その中国人女性を演じたのが李香蘭である。
抗日メンバーの一人でもある彼女は、なにかにつけ反抗するが、助けられた恩義で長谷に寄り添い、やがて恋に落ちて結婚。しかし、長谷は任務で輸送船で中国奥地へ旅立つ。そこで、抗日組織に教われ、行方不明になるが、戻ってきてハッピーエンド。
とまぁ、こういう話である。たわいない。結局日中の結びつきを強調しようとした日本側の明らかなプロパガンダ映画です。でも、李香蘭が歌う歌は、哀愁を帯びて美しい。それだけでも見た甲斐がある。すでに総集編という形で、前編というテロップから始まるが、どこまで行っても後編はなく、いきなりエンディングになる。完全に残してほしい映画だが、時代が時代なら仕方なし。でも一見の価値ありだった。