くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「64 ロクヨン 後編」「観賞用男性」「恋の画集」

kurawan2016-06-15

「64 ロクヨン 後編」
前編が、度肝を抜かれる硬派の傑作だったので、後編は期待十分と不安で見に行ったが、前編の力を削ぎ落とすことなく完成された後編になっていた。前編に比べるとちょっと見劣りしなくもないが、これほどの大人のドラマを日本映画界はまだ作ることができたのだと、嬉しさと感動に包まれた。見事。監督は瀬々敬久である。

前編で描かれた誘拐事件の一部が細かいカットで手際よく挿入されて、すぐ後編に移る。無駄のない導入部がまず好感。前編のラスト、新たに起こった誘拐事件、それはロクヨンと同じ模倣犯罪であった。こうして後半の本編がスタートする。

被害者を匿名にする上層部の思惑を探る広報官三上の行動、自宅にかかってくる娘からではないかという匿名の電話、様々な背景をさりげないカットで入れるリズム感あるタイミングが実にうまい。しかも、クローズアップの演技に耐えられる役者を揃え、緊迫感のある映像を繰り返し写していく演出も見事である。

犯人からの要求に、金を持って飛び出す被害者の父目崎の姿、それを追う三上たちの姿、真相はなんなのか、ロクヨンを模倣する犯人の真の目的は何か?情報を隠された広報室と上層部との丁々発止のやり取り、原作のエッセンスを見事に映画として焼き直された脚本がとにかく素晴らしいのだ。

移動する司令車に乗り込んだ三上と広報室との動きのある映像と、スピード感のある展開を中盤に挟み、長尺な作品に動きを作る。やがて、車の中で、この事件の本当が見えてくる。誘拐した犯人はなんと幸田である。そして、もう一人は雨宮だった。雨宮は、県警を頼らず自ら電話帳の電話全てに電話をし、自分だけが知っている犯人の声を探し、そしてとうとう見つけたのだ。それが目崎だった。

そして、追い詰めた雨宮の前で、目崎は金を燃やし、雨宮からのメッセージのメモを見る。県警も、これがロクヨンの事件であると認識の上、追っていたのである。

しかし、結局目崎は一旦逮捕されるも釈放。どうしようもない憤りの中で三上は、目崎の次女を車に乗せ、目崎を呼び出す。そして、小さな棺というメッセージにつられてやってきた目崎を捕まえ、娘の前で、父親の真実を見せる。残酷なラストであるが、一概に目崎を悪人として描ききらない演出がうまい。

原作と違うラストということですが、あえて原作は読まないつもりです。映画として非常に完成されたと判断するからです。

エピローグは雨宮の地元の祭りで、とんどを焚き、飾り物を地面に刺すという行事を楽しみにしていた雨宮の娘の面影を思い出す雨宮たちの姿でエンディング。ワンカット、三上の家に公衆電話から電話が入っているが、三上は祭りに出ていて出れない。果たして三上の行方不明の娘からかという余韻を残す。

ダイナミックに大きく移動するカメラワークと、クローズアップ、静と動を巧みに織り込んだ展開、重い内容ながらそれが重厚感として迫ってくる迫力を堪能できる一本でした。お見事。傑作でした。


「観賞用男性」
アニメチックなタイトルが終わると、パリから主人公で前衛的な人気ファッションデザイナー芦田理麻が日本に帰ってくるところから映画が始まる。とにかく映画全体がコケティッシュで軽快。軽いノリでギャグを飛ばしながらポンポンと軽い物語が展開する様はこれが映画よと言わんばかりである。監督は野村芳太郎、主演は有馬稲子である。

思いつきで次々と妙なファッションを発表し、周りが翻弄されていく様子が次々と描かれ、そのクスクス笑いが全編を覆っていく。

結局反駁しながらも、古風な恋人と最後はハッピーエンド、たわいのない映画である。前半に比べ後半はややリズム感が崩れてマンネリしてこなくもないけれど、そんなまどろこしい分析などどこ吹く風の娯楽映画に、一時の現実を忘れさせてくれます。これが映画ですね。と言いたくなる一本でした。


「恋の画集」
ドロドロした話なのに、実に軽快なタッチで展開する様は、脚本のうまさと言わざるをえません。前半のどこかちぐはぐな話が次第に絡み合って、どんどん一つに紡がれていく様が絶妙でした。監督は野村芳太郎、脚本に山田洋次が参加している作品です。

列車の中でいかにも不倫旅行のような男と女。その様子をさりげなく見て、写真を撮る若者。この後の展開が普通に見えてしまうので、そのまま進む本編で、ありきたりの話かと見ていると、そこに若者の恋人がこの不倫男の秘書で、しかも、若者の子供を身ごもったことがわかる。さらにこの若者、化粧品のセールスで、不倫男の妻の家で、恋人の妊娠を、適当な不倫話にして語ったため、何もかもが勘違いに絡み合っていく。

そこへ、不倫男が相談した弁護士のちゃっかり金の着服も絡んで、どんどん話が複雑なパズルになっていくが、終盤、それぞれがそれぞれにほぐれてきて、ハッピーエンドでエンディング。うまい。それだけで締めくくれる絶妙の語り口の一本でした。名作とか傑作ではないのですが、さらっと二本立てに並んで楽しめる映画という感じでした。