「3月のライオン 前編」
大友啓史監督作品なので、そこそこ期待して見に行ったが、とにかく人間ドラマの部分が全く描けていない。というか神木隆之介が弱すぎて見ていられないのである。脇役に芸達者を揃えているのもあって、完全に見劣りしたままに物語が展開してしまう。とても将棋の天才に見えないし、有村架純でさえ弱すぎてお話に深みが出てこない。前後編の前編であるが、後編を見たくならないというこの仕上がりは最悪だなと思います。
主人公桐山零が、幼き日両親と姉を交通事故で亡くし、その葬儀の場面から映画が始まり、そのまま幸田に引き取られる。
そして物語は現代とフラッシュバックを繰り返して、桐山零の生い立ち、ここまでの人生を描いていくのだが、全然真に迫ってこないのである。
心の変化や苦悩が描けていないために、かえってその天才ぶりも見えてこないのは本当に残念。
クライマックスは新人戦で優勝するシーンかと思いきや、その後に佐々木蔵之介扮する島田と天才将棋士宗谷との対決シーンでクライマックス。もちろんこれが伏線になって後半に行くのだろうが、中途で幸田の娘と付き合っている妻子持ちの後藤に戦いを臨む桐山零が敗退する場面のエピソードも羅列のように見えてしまって、ラストに収束しない。
後編に全てのクライマックスを盛り込むという伏線のみの前編という感じだが、これでは後編を見たくならない。これなら最初から一本で作るべきかと思います。
「お嬢さん」
純粋に面白かった。徹底されたシンメトリーな画面と様式美を貫いた画面作り、日本的な影の演出を施した構図の美しさで描くめくるめくような官能のミステリー、久しぶりにこの手の傑作を見た感じです。監督はパク・チャヌクです。
詐欺師の一族に育てられた少女スッキ、彼女はある日本人の華族の令嬢秀子のもとに侍女としてとしてやってくる。じつは秀子をたぶらかせて財産を手に入れようとする伯爵の手先だった。
まず第1部でそのまま事の成り行きの表の物語を描き、第2部でその裏の物語、秀子の視点から描く、そして第3部で全ての真相を暴くというミステリー構成が実に面白いし、広大な屋敷をシンメトリーに捉えるカメラアングルと、横に移動するカメラワークの面白さ、そして舞台劇のような様相でストーリーを語る演出に引き込まれてしまう。
まんまと秀子をものにした伯爵だが、じつは秀子と珠子ことスッキの間には女同士の愛情が生まれていて、二人で逃げるという計画になっていた。そして伯爵の計画通りに進んでいるかに見せかけて最後の最後で伯爵を罠にかけ、スッキと秀子は船に乗り旅立つ。
伯爵は捕まり拷問をされた末、自ら死を選ぶ。スッキたちは船の中で全裸になりお互いの愛を確かめ合うために抱き合ってエンディング。
かなりの官能表現が随所に出てくるが、とにかく展開が面白いので、最後までのめり込んで見てしまう。ミステリーの面白さを堪能できた一本でした。