くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「旅立つ息子へ」「三月のライオン」(デジタルリマスター版)

「旅立つ息子へ」ウリ、アハロン、タマラ

小品ですが、じわっと胸に迫ってくるなんとも言えない感動に包まれてしまいました。ちょっとした佳作という雰囲気の良い映画でした。監督はニル・ベルグマン。

 

自閉症の息子ウリとその父アハロンが列車を降りて自転車で帰宅する場面から映画は幕を開ける。ウリはチャップリンの映画が好きで、いつもポータブルDVDでチャップリンを見ている。妻タマラとも別居し、グラフィックデザイナーとして成功した地位も捨てて息子のために日々暮らすアハロン。ところが、タマラが申請した裁判所からの指示で、ウリは施設に入ることが決まっていた。アハロンたりが帰宅してみると、タマラがその説明に来ていた。

 

まもなくして、施設の係員が来てウリに施設を見学させ、入所する日が決まる。なんとかウリを説得したアハロンはウリを連れて、タマラが待つ施設へ向かうが、途中の乗り換えの駅でウリが叫び始める。説得しきれないアハロンはウリを連れて逃げることを決意、まずは美術学校時代の友人のところに行くが、その友人は母を亡くしたばかりで落ち込んでいる。気が咎めたアハロンはウリを連れてその家を出てモーテルに泊まえう。ところが、タマラによって預金口座は凍結させられみるみる金がなくなっていく。

 

ハロンは弟のところにやってくるが、そこでも、哀れみをかけてくる弟たちの視線に耐え切れずでていく。浜辺で眠っているところへ、ウリが勝手にアイスを食べたからとアイスクリーム売りに迫られ、アハロンはつい喧嘩してしまう。そして、アハロンは警察へ連れて行かれ、ウリは施設へ行く。

 

まもなくして、ウリが施設で暴れたというのを聞き、アハロンとタマラが行く。ウリはアハロンに会いたくて、大好きな映画チャップリンのキッドのエピソードのように窓ガラスを破り、アハロンが来ると思ったのだ。

 

ハロンはウリを連れ戻すことを決意、タマラもそれに同意する。そして連れ戻しに行ったアハロンだが、施設にワークショップや夕食に出ないといけないというウリの成長した姿をアハロンは目の当たりにする。苦手だった自動ドアも自分で入れるようになったウリを見つめ、アハロンは別れのきたことを知る。たまらなく辛いけれどでも、親としてはたまらなく嬉しい。その複雑な気持ちを一瞬で描くラストに胸が熱くなりました。よかったです。

 

「三月のライオン」

デビューまもない監督らしい自由自在の映像作りとややシュールな演出が多用されたフレッシュな作品でした。監督は矢崎仁司

 

幼い兄妹の写真が繰り返して映し出され、兄を恋焦がれる少女が兄の記憶喪失を機会に、兄の恋人になることを決意したというテロップで物語は夜の街、クーラーボックスを抱えた少女のシーンで幕を開ける。ポラロイドで撮った自分の写真を電話ボックスに貼り付け、ゆきずりの男性とSEXをする。そしてとある病室で眠る青年のところに行く。二人は兄妹なのだ。

 

少女は青年の問いかけにあなたの恋人だと答え、青年のことはハルオと呼び自分はアイスだと言う。二人は病室を出てアイスの部屋へ行く。こうしてなんのことはないピュアというか不思議な恋愛物語が始まる。

 

駄菓子屋の老夫婦のところで写真を撮ったり食事をしたり、そこの主人のオートバイを借りて二人は走ったりする。青年は解体作業の仕事につき、少女は青年に尽くす。青年が仕事仲間と飲んで帰らない夜には少女は自暴自棄になる。

 

やがて二人には赤ちゃんができ、少女が出産するシーンのあと映画は終わっていく。結局、青年の記憶は戻らなかったのか。解体現場で繰り返し鏡が割れる場面があり、記憶が戻りつつあるのか、それでも妹を愛していることはどうしようもなくなったのか。全体を包む雰囲気はどこか危険だがどこか透明である。その透明感がこの映画の魅力なのかもしれません。時折流れる透き通るようなハイキーの曲が映画を盛り立てています。ちょっとした作品でした。