くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ボクたちはみんな大人になれなかった」

「ボクたちはみんな大人になれなかった」

これは良かった。スクラップブックのような映画ですが、どんどん胸に染み入るように切なさが広がって行く後半部はたまりません。カメラアングルが実に凝っていて、空間をうまく利用した演出が素晴らしい。高田亮の脚本も素晴らしい。監督は森義仁。

 

カメラがゴミ置き場を見下ろしている。二人の男がそのゴミの山に飛び込んで映画は始まる。一人の青年佐藤が七瀬というもう一人の男を助け上げようとしている。七瀬はどうやらおカマらしい。二人は夜の街をふらふらと歩き出す。時は2020年。カットが変わり、1999年、ラブホテル街に立つ佐藤は、かつて愛したかおりという彼女との別れの場所に立っている。いや、その時はそれが最後とはわからなかった。

 

物語は、2015年に移り、ダラダラとテレビ局の隅っこの仕事をこなしている佐藤の姿。この日、何やら下品なパーティが行われていて、そこに嫌々ながら参加している佐藤の姿だが、そこで、同じく退屈そうなコンパニオンの女性恵と知り合う。やがて、佐藤は恵と結婚する流れになるが、仕事が多忙すぎて、どこかすれ違いばかりになる。物語は、2000年になってからの佐藤の人生を時間を前後させながら繰り返して描いて行く。

 

そして後半、物語は1999年から次第に一年ずつ遡り、佐藤が愛した一人も女性かおりとの出会い、そして恋、そして別れまでを描いて行く。この下りがとにかくたまらなく切ない。佐藤は、就職する前、オカマバーで働く七瀬に世話になっていた。当時は出会いといえば文通やポケベルの時代、たまたま七瀬が佐藤に渡したペンフレンド募集のページで佐藤は同じミュージシャンが好きな女性加藤かおりと知り合う。やがて二人は不器用ながら、純な恋人同士になる。

 

そして、佐藤が就職が決まったことでかおりはラブホテルに行こうという。初めて体を合わせたラブホテルはホテル街の路地裏のような奥にある安ホテルだったが、部屋に星空が光る部屋だった。この後二人はいつもこの部屋を使って恋を育んでいく。しかし、二人の恋は20世紀を待たずに終わりを告げる。

 

時は2020年になる。佐藤はこの日も勤め先を退社し、コロナのせいで遅くまで飲めず、一人缶ビールを飲んで歩いていると、七瀬と再会する。七瀬はすっかり落ちぶれ、佐藤の姿を見て、普通になったなと答える。そして冒頭の場面。ゴミの山から立ち上がり夜の街、七瀬はタクシーを拾い佐藤を押し込む。実はかつて七瀬は佐藤のことが好きだった。

 

タクシーで夜の街を走る佐藤の目の前に、これまでの二十五年間のさまざまな場面が蘇る。佐藤は思わずタクシーを降りて、かつてかおりと入ったラブホテルに向かうがすでに建物も無くなっていた。佐藤は夜の街を歩きやがて夜が明ける。こうして映画は終わる。普通だなという佐藤の台詞で締め括る。

 

前半、時間が前後して行くので混乱しかけるのだが、次第にそれぞれのエピソードがお互いにつながり始め、そして後半、佐藤とかおりの物語がシンプルに遡り始めるともうたまりません。本当に純粋で素敵なラブストーリーでした。