くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イントロダクション」「あなたの顔の前に」

「イントロダクション」

淡々とひたすら語られる物語で、三つに分かれているそれぞれが微妙に繋がる中編。面白いといえば面白いし、ホン・サンス監督の色だといえばまさに彼の映画だと楽しめる一本でした。

 

ある医院の一室で医師がなにやらパソコンの前で懺悔するように語っている。カットが変わり、ヨンホとその恋人が街を歩いていてヨンホがちょっと寄るところがあると恋人と別れる。立ち寄ったのはさっきの医院、医師は彼の父である。医院に入って受付で待つが、医師に友人が来ていると言うことで待たされる。友人というには有名な舞台俳優らしい。

 

場面が変わると、ヨンホの彼女はドイツにきている。ドイツで勉強をするために来たらしい。後を追いかけてヨンホがやってくる。二人でいちゃついて、ヨンホもここで住みたいなどという。

 

場面が変わり、ホテルのレストランでヨンホの母は夫の友人の舞台俳優の男と食事をしている。母はヨンホを呼んでいて、まもなくしてヨンホと友人のジュウォンがやって来る。舞台俳優とは久しぶりに会ったらしく、この舞台俳優に薦められてヨンホは俳優になろうとしたが、キスシーンがあり、恋人への遠慮から俳優を断念したらしい。

 

ヨンホとジュウォンが浜辺に来る。そこにヨンホの彼女が偶然来ていた。彼女は目の病気で難病なのだという。ドイツでヨンホと別れた後ドイツ人と結婚し、最近離婚したのだという。ヨンホは冬の海に入って行きびしょ濡れになり震えながらジュウォンに抱えられ、ヨンホとジュウォンはソウルへ帰ろうとフレームアウトして映画は終わる。

 

三つのシーンで三つのドラマをつないで行く淡々としたドラマで、最後に全て一つになる展開はなかなか情緒があって素敵です。これがホン・サンスの魅力かもしれません。

 

「あなたの顔の前に」

淡々と進むシンプルな映像とストーリーの中に一人の女性の心の旅を描いていく感じがしみじみと胸に染み渡ってくる作品。ラストの処理に映画の全てを凝縮する演出のリズムが絶品なのは毎回のことですが、今回は特に後半の長回しの延々とした会話シーンがちょっとしんどかったのと、やたら笑う主人公サンオクの描写が鬱陶しかったのを除けばいつものホン・サンス監督作品でした。

 

モダンアートのようにシルクスクリーンの窓越しに映すビル群からカメラが引いていくと、ソファで目を覚ます主人公サンオク。彼女は、傍に眠る妹のジュンオクの手をそっと触れる。こうして映画は幕を開ける。アメリカで暮らしていた元女優のサンオクは突然韓国に戻ってきた。妹のジュンオクと朝食をとり、ジュンオクの息子の食堂へ行って息子の彼女とも出会う。ジュンオクの息子からプレゼントをもらい、ランチの約束をしている映画監督のジェウォンの元へ向かうが、途中、幼い頃に住んでいた家を訪ね、今の住民とひと時の会話をする。

 

ジェウォンの予約してくれていた店に入り、助監督も交えて食事と酒を飲む。助監督が事務所に用事があるとジェウォンとサンオク二人だけを残す。ジェウォンはサンオクを主役に映画を撮ると言うがそれには一年近くの準備がいるという。それを聞いてサンオクは、自分の命は後半年くらいだと病にかかっている事を告白する。ジェウォンは、それなら明日から旅に出て短編映画を作ろうと言い出すので、サンオクは私と寝たいのねとさりげなく問いかける。ジェウォンは素直にそうだと答える。まもなくして助監督が戻ってきて、帰り支度を始めるが、外は雨だった。

 

翌朝、ソファで眠るサンオクにジェウォンからボイスメッセージが届く。昨日のことは実現しない現実だとメッセージが流れて、サンオクは大笑いしてしまう。傍のジュンオクのそばに寄り、どんな夢を見ているのと語りかけてカメラは冒頭のビル群のショットからエンディング。サンオクの一日が終わる。

 

ラストの五分で何もかもが一気に胸に染み渡って来る作品で、そこに至るまでの淡々とした長回しとほとんどシーンが変わらない映像が独特のリズムとなって訴えかけてきます。これがホン・サンスの魅力なのでしょう。今回もいい作品でした。