「神は見返りを求める」
毒を散りばめました。これだけ描けるのは才能ですね。映画としてもお話としても不思議なくらいに奥の深い面白さを堪能しました。それと、最近のドラマや映画の中では今回ダントツに岸井ゆきのがかわいらしく描けているのも良かった。終盤のシュールなエンディングはやり過ぎかもしれないけれど、荒削りなストーリー展開とメッセージをぶらさない演出は評価できる一本でした。監督は吉田恵介。
仮面をつけた若者？が何やらリンチされている様子を携帯に撮っている。そして、おもちゃの銃で撃って、リンチしているチンピラから追いかけられる。カットが変わると合コンの席、酔い潰れたゆりちゃんを人数合わせで呼ばれた田母神が介抱している。全然人気が出ないユーチューバーのゆりちゃんはダサいセンスの動画を投稿していたが、田母神がテロップ作りなどで手伝うようになる。二人は良きパートナーとなって楽しんでいたが、ゆりちゃんが人気ユーチューバーのイベントに行った際、その企画を担当していた男が先日の合コンで知り合った男で、その関係で人気のコンビユーチューバーに紹介される。その席でゆりちゃんの動画を批評され、映像デザイナーの村上を紹介される。
村上にちょっと手伝ったもらっただけで一気にゆりちゃんの動画は人気になり、どんどん登録数が伸びて行き、次第に田母神との関係も疎遠になっていく。一方田母神は、いつも自分に金をたかりにくる知り合いの金の無心を断り、その知り合いが自殺、どんどん悪い方向に向かっていく。金に困ってきた田母神は、ゆりちゃんにこれまでの恩を返してほしいと頼むが、ゆりちゃんは恩を仇で返すような振る舞いで田母神を遠ざけてしまう、
田母神は自らユーチューバーとなりゆりちゃんを糾弾していくようになる。田母神とゆりちゃんの関係はどんどん険悪な状況へと変わって行き、ゆりちゃんはコンビユーチューバーや村上によって動画制作もエスカレートしていく。しかし、ゆりちゃんのサイン会に現れた田母神は、もう嫌がらせはやめたからと静かに握手を求める。そんな田母神にゆりちゃんは惹かれるものを感じ、いつも二人の間で悪口ばかり行っているイベント会社の青年を二人は罵倒する。
仮面をつけた冒頭の青年が田母神を撮ったので、田母神は自転車で追いかけ、途中、チンピラのカップルとぶつかり、その男にリンチされる。冒頭の場面である。血だらけになった田母神はいつものようにユーチューバーとなり血だらけになってダンスを配信する。
サイン会の打ち上げで、田母神の血だらけの動画で盛り上がる村上らの姿、さらに馬鹿騒ぎのように動画のネタ作りをする村上らにどこ疑問感じ始める。そんな田母神にゆりちゃんは、どこか惹かれるものを感じてしまう。
エスカレートしていくゆりちゃんは、とうとうある動画撮影で大火傷を負い入院する。病室に仮面をつけたユーチューバーが現れるが、そこへ田母神がやってきてその男の仮面を剥いだ動画を撮り、もう近づくなと脅しゆりちゃんを助ける。ゆりちゃんは、田母神のことは嫌いだがありがとうと答える。
自宅に戻った田母神は、仮面をかぶっていたあの青年に背後から傘で刺される。背中から血を流し、大通りを踊りながら、携帯のついていない自撮り棒に向かって喋る田母神のシーンで映画は終わる。
シュールな中に毒を盛り込んだストーリーと、意味深な演出がなかなか見応えにある作品で、完成度はもう一歩というのは少し残念ですが、小品ながら面白い映画でした。
「ベイビー・ブローカー」
ここまで全ての登場人物を描きこまれるともう非の打ちどころがありません。主役、脇役、端役に至るまでの人物背景が徹底的に書き込まれ演出されています。シンプルな物語ゆえにその完成度の高い脚本が際立ちます。監督は是枝裕和、期待を裏切らない出来上がりの一本でした。
夜、下から階段を見上げるショット、一人の若い女性が赤ん坊を抱いて登っていく。それを車の中から見上げる。このオープニングが実に美しい。その女性は赤ちゃんポストの前に赤ちゃんを置いて去る。その赤ちゃんを車から見上げていた女性が赤ちゃんポストに入れる。この女性は刑事だった。ポストに入れられた赤ん坊は中の職員ドンスが取り出し、傍にいるサンヒョンに渡す。そしてポスト内の映像を削除する。サンヒョンとドンスは赤ん坊の売買を闇でしていた。外で見ていた刑事はスジンと言って、赤ん坊の人身売買の現場を抑えるために張り込んでいたのだ。
サンヒョンとドンスは赤ん坊を連れ出し、サンヒョンが営む釜山のクリーニング店に行く。そして、買い手を見つけ、そこへ赤ん坊を搬送すべく準備をする。ところが赤ん坊を捨てた女性ソヨンが赤ちゃんポストを運営する教会にやってきて返してほしいと言う。サンヒョンは、もし彼女が警察へ行くようなら連れてくるようにとドンスにいい、ドンスはソヨンをクリーニング店に連れて来る。サンヒョンらはソヨンに赤ん坊を盗んだことを話し、一緒に顧客のもとに赤ん坊を連れていくべく出発、その後をスジンら刑事が追う。赤ん坊の名はウソンという名だった。サンヒョンには借金があり、知り合いの息子でヤクザ者の青年が絡んでくるがうまく誤魔化す。
サンヒョンらはドンスがいた養護施設に立ち寄る。ドンスも捨て子だったが誰も迎えに来ないままに誰の養子にも迎えられず大きくなっていた。施設ではサッカー選手を夢見るへジンという少年がいた。サンヒョンらはその施設から目的地へ向かうが、サンヒョンらの子供にしてほしいとへジンが勝手に車に乗り込んできた。こうしてサンヒョンらは顧客のもとに着くが、値段を下げたり分割払を要求されて、結局破断となる。
現場を抑えようと後を追うスジンらだが、豪を煮やし、顧客を捏造しようと画策、偽顧客で接触するが、ドンスに見破られてしまう。一方、ソヨンは赤ん坊の相手の父親を殺害して逃げていた。その男は売春行為をしているソヨンと知り合い妊娠させたようで、殺された男の本妻はソヨンの赤ん坊を引き取りたいと連絡して来る。スジンはソヨンに直接接触し、赤ん坊を売買する現場を抑えるために盗聴する。
サンヒョンたちは、スジンをまいて、列車で目的地の途中にある遊園地に立ち寄り、へジン、ドンス、ソヨンらで家族のようなひと時を過ごす。次第にウソンを通じてそれぞれのこれまでの物語がさりげなく語られていく様が実に上手い。へジンはサッカー選手になりたいが、サンヒョンらの家族になりたいと本音を言い、ドンスは、迎えにくるからという母の置き手紙を頼りに待っていた孤独な日々を語り、ソヨンは売春行為を繰り返すに至った過去を語る。サンヒョンには別居している妻がいて、一人娘と会うのだが、元妻のお腹には新しい夫との子供がいるからもう会わないということを告げられる。後を追うスジンも執拗に赤ちゃん売買をさせることにこだわる理由があるようである。一方、ソヨンはスジンに行き先を連絡していた。
まもなくして高額の取り引きを持ちかけて来る顧客が現れる。その夫婦は最近子供を死産し、実子としてウソンを引き取りたいと申し出ていて、ソヨンには今後合わせたくないという条件を言ってくる。取引の前の晩、五人はホテルに部屋で、それぞれ、「生まれてきてくれてありがとう」と語り合う。この場面が涙を誘います。深夜ソヨンはスジンに呼び出され、ここで自首させ、刑を軽くすれば将来赤ん坊と再会する機会が早まると提案、サンヒョンはある決意をする。サンヒョンを脅していた知り合いの息子のヤクザが絡んできたがサンヒョンは、その男とどこかに消えてしまう。サンヒョンはソヨンと刑事が連絡していたことは知っていた。
最終取引の場所で、サンヒョン不在のまま、ドンスが顧客と対峙していたがそこへスジンが踏み込み、人身売買の罪で顧客は逮捕される。ソヨンは赤ん坊をスジンに預ける。この演出が素晴らしい。この場面でスジンにも何らかの過去があることが映像で語られる、サンヒョンは駅にいた。ニュースでソウルのやくざ者の若者の死体が見つかったとニュースが流れ、それをじっとサンヒョンが見ていた。
三年の時が経ち、海岸でスジンが大きくなったウソンと遊んでいた。ソヨンの希望でウソンはスジンが面倒を見ていたのだ。刑期短縮されて出所したソヨンはガソリンスタンドで働いていた。養父母になるはずだった夫婦はまだ執行猶予中だが、あの時の全員で一緒に集まろうとスジンはみんなに連絡をしていた。へジンもヒッチハイクで目的地を目指す。その約束の公園、全員が映った写真が車の中で揺れていて、ソヨンが駆けつけてきたであろうシーンが背後に見せるが、果たして会ったのかどうかというショットで映画はエンディング。
見事な脚本としか言いようがない隅々まで描きこまれた人物描写が素晴らしいし、さりげない演出の一つ一つで登場人物の全てのドラマを映像にしていくのはさすがというほかありません。韓国を舞台にしたことでリアリティが生まれたのも成功。ソン・ガンホの静かな演技が絶品、相当なクオリティの作品でした。期待通り。
