「それから」
ロードショー以来の再見。やはり傑作です。レトロであってモダン、ラブストーリーであってサスペンス、独特の映像感性で綴る夏目漱石の世界は素晴らしい。監督は森田芳光。これぞ森田の世界。
主人公代助が寝間で起き上がる。カメラがゆっくりと引いていって庭に出ると、代助は戸を開けて雨縁へ出て映画は幕を開ける。親友の平岡が訪ねてくる。銀行を辞めてこちらに引っ越してきたのだという。代助はこちらで住むうちを探してやり、やがて一軒の家を見つけてくる。平岡の妻三千代は代助も親しい人物、というより、四年前、代助と三千代はお互い好いていた。しかし、平岡が三千代に気があると見た代助は三千代を平岡に譲ったのだ。
子供を無くし、夫婦の関係もギクシャクし、さらに、家に戻ってもつまらないと家を開ける日々が続く平岡に、三千代は寂しい思いをしている。そんな三千代を頻繁に訪ねるようになる代助。一方、代助には見合いの話が来ていた。父と兄が勧める縁談だったが、代助は気が乗らない。代助の心には今も三千代が居るのだ。
映画は時に森田芳光らしいお遊びのような映像を挿入しながら、徹底した明治大正の舞台セットで二人の男と一人の女の物語が語られていく。そして、決心をした代助は三千代と一緒になろうと決意し、平岡にその旨を告げるが、三千代は心臓が悪く病に倒れてしまう。平岡は代助と絶交するといい、代助は父の元へ行き、三千代のことを話そうとするが、時を同じくして平岡は代助の兄と父に、代助と三千代の関係を手紙で知らせてくる。激怒した代助の兄と父は代助を勘当し、代助は黙って歩いている姿で映画は終わる。
どこがどうというものではなく。映像のリズムといい、さりげない凝った画面といい、シュールなショットといい、とにかく全体が素晴らしい。森田芳光全盛期の傑作の一本です。
「ライブイン・茅ヶ崎」
森田芳光監督の8ミリ映画です。のちの彼のスタイルを垣間見せるストップモーションや繰り返しの映像が散りばめられ、映画のリズムもしっかりした一本の仕上がっているのはさすがですね。
茅ヶ崎での神輿を担いだ祭りの場面から映画が幕を開けます。この地の青年二人と東京から来た彼女信子の三人の青春ドラマというか、毎日が延々と描かれる。懐かしい初代セリカや、当時の歌謡曲が流れ、洒落たセリフとキラキラした映像のリズムを巧みな編集で見せていきます。自主映画なのでお話は決して面白いというものではありませんが、映像作りを楽しむという意味で一見の価値のある一本でした。
「やまぶき」
インディーズ映画だと侮っていたのですが、意外に面白かった。少々無理のある話の部分もあるけれども、評論家の評価がうなづける映画でした。特に終盤の映像モンタージュはなかなかのもので、少々凝りすぎという感もないわけではないけれども、これがインディーズ作品かと思えるほど引き込まれるものもありました。監督は山崎樹一郎。
採石場でしょうか、これからハッパをかける準備をしている場面から映画は幕を開けます。ここで働く韓国人のチャンスは元馬術競技の選手らしく、近くの厩舎に出かけていき、そこで少し馬を走らせてもらったりする。彼は今日本人の女美南とその娘と暮らしている。そんな彼に正社員にならないかという朗報が届く。家族もでき、正社員となって前途も見えてきて、また馬術を始められる希望が生まれる。
ここに地元で刑事をしている父を持つ女子高生がいる。彼女の名前は山吹と言って、交差点でサイレントスタンディングをしている団体に興味を持ち、自分もそこに立つようになっていた。山吹の母は紛争地域を回って、メッセージを世界に発信する仕事をしている。ある時、山吹の父は自宅の庭の山吹の木が枯れたので同僚と山吹も連れて山に登り、新しい木を採取しにいく。
そこで山吹の父は、斜面に咲く山吹の木を取る際、石を崩してしまう。ところがその石が麓に崩れる際に大きな石を崩してしまい、たまたま車で通ったチャンスの上に落ち、チャンスは大怪我を負ってしまう。そして結局正社員の話も消え、クビ同様になる。せっかくの未来の希望が消えていくチャンスは、所詮こういうことかと嘆く。
翌日、同僚の連絡で落石の記事を見た山吹の父は、自分が原因だと気がつく。そんな頃、何やらヤクザ組織の金を盗んだ男が採石場に逃げるが、仲間に追いかけられ、盗んだ金の入ったカバンを砕石場に投げ捨てる。たまたま、病院を抜け出して、採石場で重機を動かしてみようとして、出来ない事を知って落胆していたチャンスは、投げられてきたカバンを見つけ中から大金の一部を盗み出す。この展開はかなり無理のあるように思えます。
チャンスは、その金で、一緒に暮らしている美南の娘に高価な服を買ってやる。そんな頃、やくざ者が山吹の父らに逮捕される。さらに、金のありかを調べていてチャンスも逮捕される。山吹の父と同僚がチャンスを取り調べるが、チャンスが山吹の父が原因で起こった落石で怪我をした男だと知った山吹の父と同僚は、落とし物を拾ったことにしてチャンスを釈放する。
ある時、美南の元夫が美南を訪ねてくる。元夫の父も高齢になり美南の事を認めてくれたのでいつでも戻ってきてもいいと言って帰っていく。
そんな頃、山吹の母が現地で亡くなってしまう。山吹の父は山吹に、サイレントスタンディングをすることは間違いではないが、まずちゃんと勉強をして、自分の行動に責任が持てるようになってから、正しい判断をした上で活動をするようにと諭す。
チャンスは、厩舎の仕事に誘われ、そこで働くようになる。チャンスは韓国の実家に電話をし、こちらで暮らすからと宣言し、その帰り山吹のサイレントスタンディングしている交差点を通りかかり、山吹に、変わるべきだと諭される。美南は、元夫の元へ行き、はっきりケジメをつけてきたようで、その後、娘を連れてチャンスのところにやってくる。チャンスは娘を馬に乗せてやり、ようやく明るい未来が見えてきた姿で映画は終わる。
ちょっとご都合主義的な無理のある展開もなきにしもあらずですが、終盤の山吹と山吹の母の映像の編集などなかなかみるべき場面もあり、インディーズ映画と侮れない1本だった気がします。面白かった。