「ぼくのお日さま」
抑えた色調と淡々と落ち着いた演出、ボソボソした台詞回し、一冬のピュアなラブストーリーを描かんとした意図はわかるし、決してクオリティが低いわけではないのですが、こんなシンプルなお話にもゲイテーマを入れないと展開できない作劇の才能の稚拙さにちょっと情けなくなった。見て損はしたとは思わないまでも、もっと透明感のある作品にできたろうにと思ってしまいました。監督は奥山大史。
少年たちが野球をしている場面、外野を守るタクヤは、空を眺めていて、飛んできたボールに気が付かない。初雪が降ってきたと友達に呟く。冬が来ると外のスポーツができないこの地では、男の子はアイスホッケーをしている。しかしゴールを守るタクヤは、それほど上手くない。ある日、練習の後、フィギアスケートをしている一人の少女さくらを発見する。
さくらをいつもじっと見つめるタクヤを、フィギアスケートのコーチ荒川が気がつく。練習の後、アイスホッケーのシューズでフィギアスケートの練習をするタクヤに、荒川は自分のフィギュア靴を貸す。荒川はかつてフィギアスケートの選手だったようで、この地でコーチをしていた。やがて、荒川はタクヤにフィギアスケートを教えるようになる。実はタクヤはさくらにほのかな恋心を抱いていた。
そんなタクヤの気持ちを汲んでか、荒川はさくらとタクヤでアイスダンスの練習をしようと提案する。そして一ヶ月後の選考会までにある程度の技術を身につけて合格を目指そうという。最初は乗り気でなかったさくらだが、一生懸命のタクヤと滑ることが楽しくなってくる。さくらは荒川にほのかな恋心を持っていた。
ある日、さくらは、荒川が男性の友達(実は同居人)と車の中で親しげに話している姿を見て、荒川が男性が好きなのではと思ってしまう。そして、荒川に、タクヤが好きなのかと問い詰め、さらに、タクヤに女の子のようにアイスダンスさせることで楽しんでいるのかと言ってしまう。そして選考会の日、さくらは来なかった。後日、さくらの母から荒川のコーチを離れると言ってくる。
すっきりしないものを感じながら、荒川は同居人に別れを告げる。どうやら二人はカップルだったようである。冬が過ぎて春が来る。タクヤは中学生になる。荒川はこの日をこの地を離れることになるが、途中タクヤを見つけて車に乗せ、かつてさくらと滑った湖にやってくる。すっかり氷が溶けて緑が覆っていた。荒川はタクヤに別れを告げる。タクヤが一人歩いていると、向こうからさくらが歩いてくるのを見つける。そしてお互いに視線が合って映画は終わる。
さくらの荒川への、タクヤのさくらへのほのかな恋心を淡々と描いた作品で、素朴で静かな一編ですが、微妙な誤解を荒川のゲイ設定で展開させた作りはどうも気に入りません。ゲイカップルもピュアですと言わんばかりが鼻につくさりげなさがちょっと嫌悪感を感じる一本だった。
「侍タイムスリッパー」
口コミで全国公開になった自主映画ということで、興味があって見に行った。よくある話なのですが物語の展開のテンポが実に良くて、ラストまでしっかり見ることができた。さらに役者陣がしっかりしていて、映画が地に足がついた状態で描かれていくのが良い。ラストは、それなりに胸が熱くなって、口コミの評判納得の映画だった。監督は安田淳一。
幕末の京都、会津藩士高坂新左衛門が長州藩士風見恭一郎を討つべく、同志と待ち構えている場面から映画は幕を開ける。そして目当ての風見が現れるが、高坂の同志は気絶させられ、高坂と風見の一騎打ちとなる。雨が降り始め雷が鳴り始めるが、あわや斬り合いという瞬間落雷に遭い、高坂はタイムスリップして映画撮影所のセットの中で目を覚ます。彷徨ううちにすでに江戸幕府滅亡から140年が経っていることを知る。
撮影所で最初に声をかけられた助監督の山本に何かと世話になり、撮影場所にも使われる寺に住まいするようになる。ところが、その寺での撮影時に斬られ役の一人が急病で倒れ、高坂が臨時で斬られ役で撮影に参加する。ところが根っからの侍の高坂の演技が気に入られ、一方高坂も斬られ役を続ける決意をし、撮影所内の剣心会に参加を希望、会の師関本のもとで稽古に励見ながら斬られ役にを続けることになる。
高坂の斬られ役は次第に評判を呼び、ある日、かつての時代劇大スターで、今回時代劇大作の主役になった役者の相手役に抜擢される。ところが、高坂がその顔合わせに行くと、そこにかつての長州藩士風見恭一郎がいた。彼は高坂よりも三十年前にタイムスリップし、同じく斬られ役になったが、やがて時代劇大スターとなった。しかし、幕府時代に人を斬ったことがあり、そのトラウマで、十年前前に時代劇を捨てていた。今回、ひさしぶりに時代劇復帰となり、高坂をたまたま見かけた風見は相手役に高坂を選んだのだった。
やがて「最後の侍」という映画の撮影が開始され、高坂と風見はかつての遺恨もある中で、撮影は進んでいく。そしていよいよラスト、二人の斬り合いのクライマックスを迎えるにあたり、高坂と風見は真剣による撮影を希望する。山本の反対を押し切り、二人は念書を書いた上で真剣による撮影に臨む。そして迫真のシーンの後、無事撮影は終了、周囲の賞賛を得る。山本は高坂を平手で殴り、二度としないでと涙ぐむ。その後、高坂はますます時代劇俳優として成長していく映像、さらにかつての高坂の同志が遅れてタイムスリップしてきた場面で映画は終わる。
お話はよくあるものだし、展開も似ているのですが、主演の山口馬木也が抜群の存在感で、周囲の脇役もしっかりしているので、実に映画が面白い。山本へのさりげない恋心の処理も粋な描き方だし、廃れた時代劇への熱い思いも伝わってきて、見ていてとっても好感で、いつの間にか胸が熱くなって見終えることができました。良い映画だった。