「ゴンドラ」
とってもロマンティックで綺麗な大人のファンタジーというかお伽話というスタイルの作品で、完全にセリフを排除して、映像だけでゴンドラの行き来を淡々と描く姿はまるで夢の世界に入ったようだった。ちょっと面白い一本でした。監督はファイト・フェルマー。
コーカサス山脈の西、ジョージアの小さな村、一台のゴンドラが駅に着いて、中から棺らしいものが運び出される。ゴンドラの駅長の男は棺の上にある制服を手にする。どうやらゴンドラの添乗員が一人亡くなったようである。場面が変わり、一人の女性ニノがこの村にやってくる。出会う人々はまるでよそ者だと言わんばかりに愛想が悪い。女性はアパートに入り、仕事のために、ゴンドラの添乗員募集の場に行く。そこで、横柄な駅長が制服のサイズが合うからとニノを採用する。
このゴンドラにはもう一人ベテランの女性イヴァがいて、彼女にニノは教えられ、2台のゴンドラを行き来するようになる。イヴァは駅長とチェスをしながら仕事をしていたが、駅長が気に入らず、反対側の駅にチェスを移してニノとチェスをするようになる。駅長はイヴァに花を送ろうとするがイヴァは途中で捨ててしまう。イヴァやニノは、途中、ふもとの村人に野菜をおろしてやったりする。
イヴァとニノは次第にすれ違う中で親しくなり、ゴンドラを飾ったり、仮装したり、ダンスしたり、楽器を奏でたりと次第にエスカレートして楽しむようになる。一方、村の小さな少年は向かいの少女が好きだった。ゴンドラみたいな仕掛けを作ってお菓子を送るが拒絶されてしまう。少女は学校へ行くのにゴンドラを使っていてニノと親しくなる。ニノは少年の気持ちを組んでやって、一緒のゴンドラに二人を乗せて、幼い恋を成就させてやる。
ニノとイヴァはいつの間にか愛し合うようになる。イヴァとニノはそれぞれの楽器を、途中でゴンドラを止めて奏でたりしたので、駅長が怒り、さらに、駅長が乗車拒否していた車椅子の男をゴンドラにぶら下げて運んでやったりしたので、給金を渡さなかった。ニノとイヴァは、昼の間に麓の村人に仕事道具を楽器のように音を鳴らせるようにし、駅長が眠っている深夜、事務所の金を盗み、ゴンドラをネオンで飾り、二人は一緒のゴンドラに乗って動き始める。麓の村人が音楽を奏で、ニノとイヴァはゴンドラの上で愛し合し、盗んだ金をばら撒く。
物音に気がついた駅長が事務所に駆けつけ、ワイヤーを切ってしまったので、猛スピードでゴンドラが滑り出す。ニノとイヴァはほし草の上に飛び降りて助かり、ゴンドラは駅に突っ込んで駅長と正面衝突する。後日、車椅子の男がケーブルを直して、少年と少女がゴンドラに乗って動き出し、少女のお菓子を、もう一台のゴンドラに乗っている少年に飛ばして映画は終わる。
綺麗なお伽話なのですが、癒し感が漂わないのは不思議ですが、独創性あふれる一風変わった作品で楽しめました。
「スパイダー/増殖」
カメラワークもいいし、閉鎖空間を効果的に使った舞台設定も上手いのですが、いかんせん登場人物が失礼ながら底辺層の知識レベルの低い存在であるのが異常なくらい鼻につくのと、やはり蜘蛛の大群というのは気持ちが悪くて、クライマックスの見せ場はどうも背中が痒くなる感じで参ってしまいました。監督はセバスチャン・バニセック。
どこの言葉かわからない言語で会話するならずものたちがトラックを降りて来て、荒野の岩山の一角の穴にガスを入れる。突然蜘蛛が飛び出して来て、一人は噛まれて叫んで倒れ、他の蜘蛛を男たちが入れ物に捕獲する。エキゾチックアニマルの蒐集家カレブはこの日もそんな生き物を扱う店に行き、冒頭に捕獲された毒蜘蛛に興味が湧いて購入する。住んでいるアパートはいかにも移民たちが住んでいるような荒んで汚れたアパートで、住民たちは汚し放題のまま、掃除婦の中国人らしい女が黙って掃除をしている。
カレブはブランドスニーカーを闇で売買して利益を得ていた。妹のマノンは自宅を改修している。カレブは買って来た毒蜘蛛を紙箱に一時入れて、商品を準備しに行くが、箱が濡れていて、仕方なく商品だけ持ち帰る。ところが毒蜘蛛を入れた紙箱が食い破られ蜘蛛が外に出てしまう。カレブは気が付かないまま、商品を新しい箱に入れて顧客のトゥマニに届ける。トゥマニは早速靴を履くが、中に毒蜘蛛が入っていて刺されてしまう。その頃、カレブは、毒蜘蛛が逃げ、そばに繭が張られているのを見つける。
逃げた毒蜘蛛はアパート中に広がり、さらにダーウィンの法則で、敵がいる場所でみるみる大きくなっていく。異変に気づいた警察は未知のウィルス感染だと判断してアパートを隔離して住民を閉じ込めてしまう。カレブたちは、蜘蛛が光に当たると動きを止めることを知り、脱出しようと試みる。住民たちは次々と蜘蛛に刺され、さらに宿主として卵を産み付けられていく。このあたりからリアリティを通り越していく。
カレブたちは、大きくなった蜘蛛を避けながら逃げ場を探すが、やっと見つけても警察が管理していて外に抜け出せなかった。その中でカレブの幼馴染ジョルディは蜘蛛に囚われて死んでしまう。カレブたちはとうとう警官と大乱闘を繰り広げるが、結局逮捕されて駐車場に拉致されてしまう。一緒に拉致されたマティスはすでに噛まれて卵を産み付けられていることを知り、囮になってカレブたちを逃す計画を立てる。
駐車場とアパートとの入り口に突進したマティスはドアを破り、飛び込んできた蜘蛛と銃撃戦になった警官たちの隙を縫ってカレブたちが車で脱出、なんとか駐車場の外に出る。アパートは取り壊され。一段落した頃、森に行ったカレブは、幼馴染のジョルディと、幼い頃作ろうと約束した爬虫類園のチラシを箱に入れて埋める。一匹の蜘蛛がカレブの肩から現れ、カレブはその蜘蛛を逃して映画は終わる。
一見、パニック映画なのですが、主人公たちがいかにも移民系の底辺の人々であるという設定が妙に毒を感じさせるので、単純に逃亡劇を楽しめる心地よいエンタメ性はちょっとなかった気がします。ただ、手持ちカメラや狭い空間を縦横無尽に動くカメラワークなどが実に上手く、最後まで緊張感が途切れない出来栄えだった。
「ヒューマン・ポジション」
カメラをフィックスで構えて、空間を大きくとった構図と、人物をとらえないインサートカットを多用した絵作り、北欧らしい落ち着いた色彩演出などとっても美しい静かな雰囲気の作品で、劇的な展開を作るわけではないものの、移民問題に触れることで、日常の生き方を変えていこうとする主人公の心の動きを淡々と描く様は見事な秀作だった。監督はアンダース・エンブレム。
港を見下ろす風景を長回しに捉えた後タイトル、窓辺に座る一匹の猫のカットから映画は幕を開ける。地元紙の記者をするアスタは、これという熱意もなく、アール・ヌーヴォー建築保存や地元ホッケーチーム、クルーズ船の景気など淡々と取材を繰り返していた。ガールフレンドのライヴと二人で住み、家具を調整したりする日々だった。
そんなある日、ノルウェーに十年住み働いていた難民が、強制送還されたという記事を読む。アスタはその事件を調べていくうちに、自身を覆っていた無気力感を払拭し仕事やプライベートで求めていた心の居場所を感じ始めていく。アスタはライヴに、探し求めていた椅子をプレゼントし、ライヴはアスタに曲をプレゼントして、二人はリビングで座っている場面で映画は幕を閉じる。
所々に猫が配置されたり、アスタとライヴが寝そべる姿を真上から捉えたり、街並みを静かに映し出したりと、淡々とした映像表現がとても心地よくて、何かを見たというより、この二人の景色に立ち寄ったというさりげなさを感じさせる映画でした。