くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミックマック」

ミックマック

ジャン=ピエール・ジュネ監督のファンタジックな反戦映画というべき一本を見る。例によってあの独特の映像感覚、色彩感覚、画面構図に引き込まれてしまう。まるで現実がおとぎ話になる瞬間を味わうのに十分なシュールで独創的な画面はさすがに何度見ても魅力的ですね。ただ、今回の作品はそんなファンタジックワールドにブラックな風刺が効いた反戦テーマに終始したにも関わらず、ラストシーンでとってつけたようなラブシーンをもうけたのはちょっと失敗ではなかったかというのが感想です。

映画が始まるととあるアラブ?の地雷探索のシーン。一人の兵士が今にも地雷を撤去すべく発見している。カメラが引いて俯瞰で彼らの姿をとらえた瞬間に地雷が爆発。そして画面は一人の少年バジルの姿に。そこへ電話がかかってきて母親らしい人が電話口へ、そして愕然とするショット。この少年の父がさっきの地雷撤去隊で死んだ男であることが示され、時間はこの少年の30年後へ。

ビデオ店で働くバジル、テレビでモノクロのボギーの映画を見ている。テレビのギャング追跡シーンにかぶって外でもギャングらしいカーチェイスが、そして銃撃。なんだろうと外にでたバジルに流れ弾が命中、さっきのテレビの下に倒れカメラはゆっくりとテレビ画面からモノクロのタイトルシーンへ続く。さすがにジャン=ピエール・ジュネらしいテクニカルなファーストシーンですね。

タイトルが終わると、バジルの手術シーン、そして玉を取り出さないと決めたドクターの決断、退院してホームレスになって、コミカルにお金を稼ぐシーンへ続きますが、どこか毒のあるショットの数々は正直嫌いな人には鼻持ち成らないシーンかもしれませんね。
そんな生活の中である男に廃品回収を業とする仲間のような家族の元へつれて行かれ共同生活するようになる。
ものづくりが得意な男、体が異常に柔らかい女性、数字の記憶が天才的な少女、人間ロケットのギネス記録保持者などなど、一風変わった人たちの中で、やがて男は自分を撃った銃弾の製造会社と父を殺した地雷の会社への復讐を決意、しかし、一人ではままならないために家族の人たちの協力をえて、実行していくのが物語の本編。

ですが、この展開が非常に抑揚がないせいか、ストーリーにメリハリのない脚本のせいか、なんともポイントが見えてこない。しかも、ジャン・ピエール・ジュネならではのエログロ趣味も随所にはいってくると、コミカルであるはずのシーンやにんまりとさせられるシーンも笑えない。この映画の弱さは本編にはいってからもう一歩練り込んだプロットの組立が不十分に終わっている点でしょうか。
成功作品の「アメリ」も展開は非常に似ているのですが、それぞれのプロットに強弱があって、全体にメリハリが生まれていましたが、今回は、ひたすらあの独特の演出の繰り返しがかえって面白味を打ち消す結果になってしまっているのが本当に残念。

とはいっても、夢見るような画面の構図や、シュールで遊び心満載の美術セットの美しさはさすがに群を抜いて個性的であり美しい。グロテスクな小道具を無視さえすれば非常に小気味よいおしゃれな映像が次々と展開するめくるめくファンタジーワールドは必見の値打ち十分。
ラストに向かって反戦を訴えていこうとするも、この軽妙な語り口が重くなりがちなテーマを笑い飛ばす。
しかし、ラストがいけない。すべて終わって、今時のごとく暴露された映像が動画サイトで全世界に広がったり、例によって仲間内の中でカップルが生まれていく下りはちょっと安易なエンディングすぎるような気がしました。それがジャン=ピエール・ジュネだと言えばそうなのですが。

楽しい映画ですけど、辛口で書けばラストが残念という感想でした。