くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「美徳のよろめき」「夜の鼓」「真剣勝負」

美徳のよろめき

美徳のよろめき
三島由紀夫の原作を新藤兼人が脚本、中平康が監督をしたいわば不倫者の物語である。

90分あまりの作品であるが、主人公がかなわぬ不倫によろめく姿をのらりくらりと描いていくストーリー展開は、そのまま作品のリズムののらりくらりとしたものになり、正直しんどい。

ただ、新藤兼人の脚本のすばらしさはそののんびりした展開がクライマックス、一気に緊張感が走る終盤を迎えるという構成のうまさに至っては絶品である。

主人公節子が不倫相手の土屋と一泊の旅行から帰る。もちろん、結局、なにもなかったのだが、耐えきれない苦しみに夫に身をゆだね、久しぶりに体を合わせる。しかし、その後、彼女が妊娠、しかし夫に告白する前に、土屋とバーで密会しているところを夫に見られる。ここで妊娠していると夫に告げても夫の子供と信じてもらえるわけはなく、どうにもならなくなった節子は友人牧田に相談し子供をおろす。しかし、その入院の夜。男遊びを繰り返していた牧田は男に殺される。

こうして、節子は土屋との関係をきっぱりとあきらめることにし別れる。そして、自宅で土屋に手紙を書くのであるが、ここで初めてカメラは真正面から節子をとらえる。しかし、手紙を書き終えたものの、それを破りさって、じっとこちらを正視する節子のアップで映画が終わる。

しんどい物語ながら、ささやかな隙間のない物語構成のうまさは新藤兼人の脚本のなせる技だろう。やはり1950年代の作品はいずれもそれなりのレベルの作品が多いことに感心してしまいました。
ちなみに二谷英明がボーイAの役、芦田伸介が土屋の兄の役など端役で出ているのも古い映画の面白さかもしれません。

「夜の鼓」
近松門作衛門原作の時代劇であるが、脚本が新藤兼人橋本忍橋本忍お得意の推理ドラマ仕立ての構成と、新藤兼人ならではの人間ドラマが結集した傑作であった。監督は名匠今井正である。

江戸表から地元鳥取に帰ってきた主人公の武士小倉。しかし、地元では妻が不義をしていたという噂が広がっていた。最初は信用しなかったものの、ことの次第を解明するべく親族会議が招集される。

そこで、主人の留守に妻と接した人々の証言が次々と語られていくが、そのどれもが、妻が実に貞淑であったという内容。フラッシュバックにより過去と現代を巧みに交錯させ、ことの真相はいかにと観客を引き込んでいく手腕は実に見事なものである。

そして、疑いがはれて帰る夜道、妻の妹から大蔵にさらに本当の事実が明かされる。そして、噂の張本人は小倉の親友磯部へと持ち越される。そこでその磯部に小倉が聞いた真相とは、実は妻は本当に鼓打ちの男と不義を働いていたというもの。愕然とする小倉は妻に詰め寄り、それが事実と判明。妻は自害を促され、小倉に切り捨てられる。

そして、妻の敵として京都に帰った鼓打ちが小倉や妻の妹弟たちに切り殺されて映画が終わる。
真相へと引き込んでいくストーリー構成のおもしろさも見事ながら、導入部でさりげなく人々の関係を説明し、主要人物を説明する脚本のうまさは絶品である。

それぞれの人物の個性が見事に推理劇に反映し、ラストまでその人間性が善人に見えた鼓打ちが実はくせ者であったという真相で一気に大団円を迎えるエンディングに拍手したくなる傑作であった。

「真剣勝負」
内田吐夢監督が自身の宮本武蔵五部作の番外編として、鎖がまの名手宍戸梅軒との一騎打ちを伊藤大輔が膨らませた脚本で描いた豪快な作品である。

少々、クライマックスがくどいところがないわけではありませんが、吉川英治の原作を大きく膨らませ、骨太なドラマとして作りなおした伊藤大輔の脚本は全く見事。

物語の本筋は同様ながら、クライマックスの決闘シーンを宍戸梅軒の子供を効果的に使い父と子、母と子、そして武蔵と子供、さらに二刀流への開眼という奥の深いテーマを盛り込み、枯れ草に火をつけるというスペクタクルなクライマックスでエンディングを迎えるという趣向は恐れ入ってしまいます。

一騎打ちで宍戸梅軒と宮本武蔵が向き合ったところでエンディングを迎えるので、その結末は不明ながら、誰もが知る結果であるし、一方で幼い子供が不憫に思う観客の心をくんだ絶妙のエンディングはまさに本物の映画人が作ったラストシーンと呼べるものだと思います。

単なる宮本武蔵剣劇時代劇として終わらせなかった番外編の傑作と呼べる一本ではなかったかと思います。