相米慎二監督の遺作になった作品です。
風俗で働くゆり子と公務員で、酒の失敗で週刊誌で騒がれ首になった廉司のロードムービーというスタイルの映画で、相米慎二監督ならではのファンタジックなシーンを取り混ぜながらも円熟期と呼べるような安定した落ち着いた画面が展開します。
満開の桜、朝靄がゆっくりと流れる中カメラは桜の木の袂で横になっている男廉司とその膝枕に横たわるゆり子のショットから映画が始まります。手書きのやさしいロゴのタイトルが浮かび上がり、長回しで桜の木の間から二人に寄っていく。男はずぼんをぬいだままで、今の状況がわからず女性を揺り起こしている。女はピンサロにつとめる風俗嬢でどうやら廉司はその客らしい。
酒を飲むとなにも記憶を失う廉司はその場のいきさつもわからないままにゆり子とわかれる。廉司は半ばアル中状態で常にアルコールを手にし、ゆり子は東京で一人すむが、北海道の故郷に子供が残してあり、ある日、ふるさとへ旅立つことにする。
酔った勢いで北海道へつれていくといったゆり子の言葉を頼りに空港で廉司は彼女を待ち一緒に北海道へ。ゆり子にはかつて夫がいて幸せな生活だったが夫が交通事故で死に、子供を母に預けて東京へ出てきたらしいことが徐々に挿入される過去のフラッシュバックで語られていく。
一方の廉司は文部省の役人らしく、それ以上はあまり語られない。
北海道へ入ったシーンで画面にフレームインしてくるピンクの車、ゆり子のコートが真っ赤だったりと寒々とした北海道の景色をバックにした絵作りがなかなか見事である。
今はお寺の坊さんと再婚した母の元を訪ねるも、子供に会わせてもらえず、落ち込むゆり子は廉司とひたすら雪山深くへ走る。そして夜中にたどり着く山頂付近のペンション。そこでの夕食の席でゆり子は自分が風俗嬢であることを明かし、一人の男性をあてがわれ、廉司は一人部屋を出てロビーで眠る。夜中に目を覚まし部屋に戻るとゆり子はいない。
あわてて、夜の山に探しに行く。ゆり子は雪の中でキャミソールのみになり睡眠薬を飲む。線香花火をつけて浮かび上がる彼女のショットがものすごく幻想的である。そんな彼女を見つけた廉司は彼女を抱きかかえる。冒頭の桜の木の下での二人のふざけるショットが美しくもファンタジックにフラッシュバックで繰り返される。
山小屋までたどり着いた二人はそこで暖をとり、息を吹き返したゆり子をつれてもう一度母のいる寺へ。廉司もすっかりアルコール漬けから逃れているようである。
そこで一人の少女を見つけたゆり子がかけよると、少女の手の中に蛙。「ママ」といってゆり子にしがみつく少女。
一人車で去ろうとする廉司だが、いったんバックして、また前に進んでバックミラーでみるショットでエンディング。蛙のアニメの背景でエンドクレジット。
ゆり子が手に巻いているブレスレットの鈴がちりちりとなるクライマックスがどこか寂しく聞こえるが、車で走るシーンのバックに流れる南国の三味線のような陽気なテンポの曲が不思議なムードを生み出す。さりげなく映すゆり子が父の墓に供えるハイライトの煙草にみせる優しさと哀愁。現在の二人の境遇を執拗に次々とくゆらせるゆり子の煙草、一方ことあるごとにアルコールをの無廉司の姿で表現する描写など、長回しにみではない相米慎二のこだわりの演出も目を見張るものがあります。
はかなさのなかに未来を見せ、どん底に落ちた二人がもがきながらもゆっくりと再生していく姿を幻想的ともいえる映像と軽妙なリズム、そしてどこか落ち着いたムードを醸し出しながらつづられるしっとりしたロードムービーという感じでした。さすがに大人の映画になってきた感がしますが、これが遺作とは本当に寂しい限りです。