くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「快楽」「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

「快楽」

これは良かった。カメラワークが流麗で素晴らしいし、セットの立体的な造形も見事、しかも、映像のテンポも素晴らしい傑作でした。物語はモーパッサンの短編三本なのですが、別々のようで別々ではなく絡み合わせた脚本も秀逸でした。監督はマックス・オフュルス

 

パリのダンスホールから第一話が始まります。ダンスが始まり、飛び込んで見事に踊る仮面をつけたダンサー。次々と女性たちと絡みながら踊り狂うが、突然倒れてしまう。医師が駆けつけて、ベッドで仮面を取ってみたら、なんと老人。そのまま自宅に連れ帰り、そこで妻から、彼の若き日からの物語が語られる。

 

そして場所はノルマンディのカフェへ。大勢の女たちが船員たちの相手をして賑やかに過ごしている。カメラは窓の外、中、坂道を縦横無尽に動きながら賑やかな日々を描くが、ある時、店の看板の火が消えている。ドアに、田舎の妹のところの子供が初聖体拝領のお祝いがあり出かけるのだという。

 

汽車で田舎に向かう賑やかな女性たち、田舎で、そのパーティで騒ぐ彼女たちの姿からやがて街に戻り、店を開店して、華やかな日々が戻る。カメラが斜めに構えたり、リズミカルに動き回る長回しが素晴らしい。

 

そして第三話、一人の画家がある女性をモデルに選びやがて結婚。しかしいつの間にか溝ができ、大げんかの末に別れてしまう。しかし女の方は夫を愛していて夫が再婚するという噂を聞いて夫のところにやってくる。そしてもう一度一緒になれないなら自殺するという。売り言葉に買い言葉で、なら死ねばという夫の言葉に女は窓から飛び降りる。そして両足を骨折。夫は後悔し、もう一度一緒に暮らすようになる。浜辺を車椅子を押す姿で映画は終わる。

 

真ん中のエピソードが一番長く、その前後を手際よくまとめて、全体を一つの作品に仕上げた脚本がなんといっても素晴らしい。さらに、長回しでどんどん語っていくストーリーテリングの見事さと、階段や坂道を多用した美術の見事さ、一方で、広がる草原を見せる大きなシーンも挟んだ映像作りも絶品。本当に一級品をみた感動を味わうことができました。

 

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

2016年大ヒットした作品を250カットを追加して再制作した作品で、追加されたこととそれに伴う全体の見直しが行われ、テーマが変わっているので、別作品として見てもいいと思う。とにかく、素晴らしいほどの傑作に仕上がっていました。もちろん前作も素晴らしかったのですが、また別の意味で、胸を打つ感動を得ることができました。

 

正直なところ、細かいところは、どこがどう付け加わったか具体的に書きにくいのですが、すずとリンの出会いのシーン、会話のシーンが増えている気がします。そのために、一部無くなった部分も見受けられるのですが、気のせいでしょうか。

 

物語の骨格は同じなので、ストーリーに変更はないですが、リンとすずの触れ合いが増えたこと、枕崎台風のシーンの追加などで登場人物の側面描写が加わり、反戦ドラマだけでなく心の物語が交錯して、切ないほどの仕上がりになったように思います。本当にいい映画ですね。考えさせられるに、胸に染み渡ってしまいました。