「樹氷のよろめき」
なんとも言えない、行き詰まった感じのする映画だった。それは演出面でも、やたら被写体を回転して捉えるシーンが繰り返されるし、エピソードの合間合間の魔の抜けたような音楽の挿入、さらに演者も、どういう意味かわからない戸惑いの見られる演技、取り留めのない物語、なんとも言えない映画だった。監督は吉田喜重。
賑やかなOLたちの後ろ姿から美容院で噂話に花が咲く女性たちを真上から捉えてタイトル。札幌に、愛人で高校教師の杉野とやってきた美容院の経営者百合子は、杉野が車の故障で立ち往生するにあたり、これで最後にしよう決意する言葉を告げる。しかし杉野は百合子を湖上のボートに誘う。そこで百合子は妊娠したと告げる。一緒に病院に行くという杉野を断り、室蘭にいる友人と病院に行くという百合子。室蘭には元恋人に今井がいた。
百合子は汽車で室蘭に向かい今井と再会、病院へ向かうが、想像妊娠だった。そんな二人を杉野が追って来る。そして百合子はニセコへ行くと言い出し、今井と杉野も同行することになる。百合子と今井は体を合わせ、かつての関係を取り戻したかに見えるが、今井には妻がいる。一方、杉野はゆきずりの女たちと遊び、自暴自棄になりながらも百合子を追って来る。
杉野がニセコの山中に向かったと聞いて、今井と百合子が向かい、そこで三人で言い争いになる。杉野は百合子を離したくないというが、百合子はもう関係は終わったという。と言って今井を受け入れたわけでもない。杉野は立ち去る百合子と今井を見送りながら崖下に飛び降りる。慌てて今井が戻るが、すでに杉野は事切れていた。二人で杉野の遺体を運ぶ。そして吹雪の中、途方に暮れたような百合子のカットで映画は終わる。
結局、どういう話なのだというほどに先の見えない作品だった。芸術を追い求めたのか、行き詰まったのか、なんとも理解できない仕上がりの映画でした。
「水で書かれた物語」
歪んだ愛情か、究極の愛情か、物語はシンプルなのですが、捏ね回した映像作りで延々と描かれる作品で、クオリティはそれなりにあるのだけれど、感動が胸に湧き上がってこない。愛のドラマなのに、どこか冷めた絵作りに終始する作品でした。監督は吉田喜重。
銀行のシャッターが開き、ロビー内を俯瞰で捉える映像から映画は幕を開ける。銀行員の静雄がふと机の引き出しを開けると手紙が入っていて、婚約者のゆみ子さんはバージンかどうかという内容が書かれていた。静雄はデパートの社長橋本の娘ゆみ子と結婚が決まっていて、この日、ゆみ子の車で橋本を旧宅に送った後、静雄とゆみ子は走り去る。橋本が旧宅に入っていくとそこには静雄の母静香が待っていた。映画は現代の物語と、静雄が幼い日の物語を交錯させて進む。
静雄の父高雄は肺の病気で入院していた。一方橋本の妻は病弱で寝たきりだった。花の師匠か何かの静香は橋本の後援で仕事を順調にこなしていたが、高雄がなくなってのち、静香は橋本の妾同然になっていた。そんな状況を幼い静雄は苦悶していた。やがてゆみ子と結婚した静雄だが橋本と静香の関係を知る中、夫婦の愛情が生まれてこなかった。そんな日々の中、橋本と静香の関係も再開し、頻繁に会うようになる。
静雄はわざと取引先の社員を一人で待つゆみ子の家に向かわせたりして、嫌がらせでもないが複雑な思いを紛らわせていた。耐えられなくなった静雄は橋本に直接、母静香と会うことをやめるようにいうが、橋本に反論され、橋本は車を運転していたので、事故を起こしてしまう。ある夜、静雄が飲んで帰ると静香が待っていた。眠れない時に睡眠薬を飲んでいるというのを聞き、静雄は母に一緒に死のうと持ちかけるが、翌朝、母は一人で橋本の所に出掛けて行った。駆けつけたゆみ子と静雄は初めて愛し合う。その後、ゆみ子の父橋本のところに行くが、留守で、温泉旅館に出かけたという。静雄たちが後を追うが、途中で自動車事故で死んでいる橋本を発見、さらに湖で静香の草履や日傘を見つける。こうして映画は終わる。
途中、幼い静雄がしずかの教え子の女に悪戯されたり、橋本が手配した芸者が静雄を誘惑したりするエピソードなど、てんこ盛りに物語があるが、やや無駄な部分も多い。絵作りは例によって美しいが、今一つキレがないのも確かです。果たして静香と橋本の愛はどういうふうに本物だったのか、何か静香に苦悶させるものがあったのか、その結果、自殺を考えたのか、ゆみ子と静雄の愛情は結局どうなのか、どれも胸に伝わる人間味ある何かは全く見えない。ちょっと間延びしてしまった感のある映画でした。