「マッドマックス」
初公開以来の四十年ぶりの再見。ほとんどのシーンを覚えていたが、ラストシーンはすっかり勘違いしていた。結局暴走族のボスを殺すところまでいかず、復讐に燃える場面で映画が終わる。決して名作とか傑作というより、低予算のB級映画の一級品だった。しかし、鳥のシーンをカット挿入したり、振り返ってみると全編疾走する場面が頭に残る演出の面白さは絶品。やはり後の才能を予感させる作品だった。監督はジョージ・ミラー。
今から数年後というテロップの後、ナイトライダーが運転する狂った車が疾走する場面から映画は幕を開ける。警官殺しをして逃げているらしく、AFPという警察組織のパトカーが追跡しているが、ハイチューンされたナイトライダーの車になかなか追いつけず翻弄されていく。バイク警官のグースも後を追うが、結局追いつけず、親友のマックスに連絡を取る。
道路の傍で状況を聞いていたレザースーツの警官マックスはおもむろにサングラスをかけ、愛車インターセプターのエンジンをかけ、ナイトライダーの車を追い始める。最初は調子よく警官を破壊しながら疾走していたナイトライダーだが、インターセプターが迫ってくると急に弱気になり、泣き叫びながら事故を起こしたトラックに突っ込んで大炎上してしまう。
一段落したかに思えたが、しばらくして、ナイトライダーの仲間だという暴走族集団がこの街にやってくる。リーダーはトーカッターと言い、完全に狂った男で、右腕のババを伴ってやりたい放題で暴れ始める。たまたま見かけたカップルを追い詰め襲った事件がAFPに入り、グースとマックスが現場に向かうと、乱暴された女性と、薬でラリっている暴走族の一人ジョニーを発見、ジョニーを逮捕して戻る。
ところが、トーカッターの差金か、弁護士が現れ、ジョニーを釈放してしまう。きれたグースがジョニーを殴りつけるが、結局仲間のところへジョニーは帰って行った。トーカッターはジョニーに、グースを始末するように命令、ジョニーはバーで飲んでいるグースのバイクに細工をする。翌朝、グースはバイクで事故を起こすが、軽い怪我で済む。レッカー車を手配してバイクを乗せて帰るグースにさらに暴走族が襲い掛かり、レッカー車に事故を起こさせ横転させる。車の中で身動き取れないグースにトーカッターは、ジョニーに火をつけるように指示、ジョニーはいやいなやながらグースを焼き殺してしまう。
親友を失い、茫然自失したマックスはAFPを辞めると隊長にいうが、隊長は二、三週間休暇を取れと提案する。マックスは愛妻ジェシーと息子を連れて親戚に家に遊びにいくが、トーカッターが彼らの行方を追っていた。そして、ジェシーと息子に迫り、慌てて駆けつけたマックスの前でジェシーと息子は殺されてしまう。
マックスは、復讐を誓い、かねてから部隊で改造されていた600馬力に車を盗み、トーカッターを追う。そしてババを撃ち殺し、ジョニーを焼き殺し、目指すトーカッターを倒すべく車を走らせて映画は終わる。
凝縮された娯楽性は、面白く見せることを割り切った感が強く、疾走するバイクや車のシーンを地面スレスレに構えたカメラが駆け抜ける様は絶品。単純そのもののストーリーと、勧善懲悪の展開、そして、デビュー作らしいギラギラした演出、やはり相当に楽しめる一本だった。
「このろくでもない世界で」
久しぶりに骨太な韓国映画の力作に出会いました。少々お話は暗いですが、グイグイ引き込まれる迫力に最後までスクリーンに釘付けにされてしまいました。クローズアップを多用した役者の視線の演出が素晴らしく、主人公ヨンギュのやや寄り目の不気味さ、チゴンの冷徹な中に秘められる悲しさ、ハヤンの可憐な中に潜む哀愁に気を抜けないドラマを見せつけられた感じです。傑作だった。監督はキム・チャンフン。
高校でしょうか、ヨンギュが足元の石を拾い同級生らしい男子生徒を殴り倒す場面から映画は幕を開ける。その少年がヨンギュの義妹ハヤンをいじめたということで仕返しをしたらしく、殴られた生徒の親が賠償金をヨンギュの母に請求、払うまでヨンギュも停学になってしまい、ヨンギュの母も途方に暮れる。ヨンギュの義父はハヤンの実父だが、酔うとヨンギュに暴力を振るう男だった。
ヨンギュは中華料理屋でバイトをしていたが、ある日、サラ金業者の事務所に配達に行きそこの店主のチゴンと出会う。チゴンはヨンギュに秘めたものを感じたため、手下のスンムにヨンギュに金を届けさせる。ヨンギュはその金で賠償金を払うが、母はヨンギュに疑念を向ける。スンムは金を渡す際、二度とここにくるなとチゴンからの伝言を伝える。しかし、父に受けた傷が評判が悪いとバイト先をクビになったヨンギュは一人でチゴンの事務所にやってくる。
チゴンはヨンギュを試用してみることにするが、ヨンギュはどん底の日々を送ってきたがむしゃらさで次第にチゴンに認められるようになる。チゴンは、サラ金まがいの仕事よりバイクを盗む窃盗団の仕事が主だった。そんなヨンギュがスンムは気に入らなかった。チゴンのボスチュンボムは地元の有力者で、政治家を自ら当選させては地域の再開発で利権を得ようとしていた。そのためには贔屓の候補者の対抗馬に罠を仕掛けて引き下がらせるようにチゴンに命令する。
チゴンはチュンボムの命令は絶対だったが、ヨンギュにとっては、あまりに冷酷すぎるチゴンが受け入れられなかった。中華料理店でバイトしていた際に見かけた貧しい親子のバイクを盗み、膨大な利子で金を貸し付けるチゴンにヨンジュは反抗的な態度を取り、バイクを取り返したりあうりが、その度にチゴンは自ら身をもって戒めるのだった。
チゴンは幼い頃、父に命令され湖で魚をとっていた際溺れ、たまたま釣りに来ていた男に釣り針に耳が引っかかって引き上げられ、奇跡的に息を吹き返した過去があった。その恩人こそが今のチュンボムだった。チュンボムはヨンジュが気に入り、彼を育てたいと仕事をふったりするようになるが、チボンはヨンギュが自分のようになることに不安を持っていた。
そんな時、チュンボムがバックアップしていた政治家が、突然引き下がると宣言したためチュンボムが怒り、ヨンギュにその政治家を痛めつけるように命令する。ヨンギュは政治家のところへ行きチュンボムが支援した金を取り返すが、さらに片足を不能にするようにと命令がくる。ヨンギュはその候補者に襲い掛かり、揉み合った後、金を持って帰路に着くが、乗っていたバイクが突然不調になり大事故を起こし、金は川にばら撒いてしまう。どうやら何者かにバイクを壊されたいたらしい。
チゴンはヨンギュの失った金を作るべく、手元のバイクを全て売り払う。そして、バイクに細工をしたのをスンムだと思ったチゴンはスンムを痛めつける。ヨンギュは金を無くしたことで自分は狙われていることを知り、逃げ場を失ってハヤンを頼る。そしてヨンギュはハヤンを伴ってチゴンの事務所にやってくる。そして、ハヤンを人質にして金を作ってくると飛び出す。
がむしゃらに金を作ろうと走り回り、一台のバイクを盗もうとして、ショーウィンドウに映った自分の姿を見て愕然とする。そして手ぶらでチゴンのところに来たヨンギュは、自ら爪を剥がしてハヤンを連れ戻し、ハヤンを逃した後再度チゴンのところへ行き、仕事は辞めると言い、おとしまえとして腕を切り落とそうとする。チゴンがヨンギュを止め、揉み合いになったが、ヨンギュはすっかり自分を無くしていた。そしてアイスピックをチゴンに突き刺し、さらにトドメを刺そうとするが、ようやく我に帰ったヨンギュは力を緩める。ところがチゴンは、その手をもう一度自分の喉に向ける。自分は湖で死んだ人間だからと自らの喉にピックを刺し死んでいく。
駆けつけたスンムらを振り切ってヨンギュが家に戻ると義父が母を殺していた。ヨンギュはバットを握り義父を殴ろうと立ちあがり、それをハヤンも止めることはなかった。しかし、すんでのところでバットを捨て、義父は逃げてしまう。ヨンギュは母の死体に寄り添い、一緒に行こうとハヤンを誘う。ヨンギュはかねてから、誰も彼も平等に生きられるオランダへ帰化するのを夢見て金を貯めていた。ヨンギュとハヤンがバイクで走り去る姿で映画は幕を閉じる。
正直素晴らしい人間ドラマの傑作だった。映画の作り、役者の演技、物語の組み立て、どれをとってもハイクオリティで、完成品とは言えないまでも、これこそ韓国映画の底力と言わんばかりの映画でした。