くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「零落」「テス」(4Kリマスター版)

「零落」

淡々と進むストーリーなのだが、流れが五里霧中で、手探りでついて行く感じがなんともしんどい。繰り返し繰り返し、自分のステイタスを上から目線で周りに訴える主人公の立ち位置が今ひとつ引き込んでくれない。ところがラストの十分くらいから妙にいい感じで締めくくるのはいい。でも、なんとも言いづらい作品でした。監督は竹中直人

 

意味深なつぶやき、そして、一人台詞で語る主人公の思いの後、八年間の漫画連載を続けた作品が終わって、その打ち上げの場面から映画は幕を開ける。元人気漫画家的な存在になった深澤は、次の作品のアイデアもなく、しかも周りの読者もスタッフも今時で薄っぺらく、いたたまれない日々に陥っている。妻ののぞみは、人気作家の編集者として忙しい日々を送り、深澤が取り付くしまもないほどで、夫婦の会話もない。そしていつの間にかそのズレの中で溝ができている。

 

深澤は、虚しさを紛らわせる為に、デリヘル嬢を呼ぶのだが、それは一時の気の紛らわせでしかなかった。夫婦には白いチイという猫を飼っていて、深澤は癒しの拠り所として猫を可愛がっていた。

 

ある時、深澤が呼んだデルヘル嬢でちふゆという女性がやってくる。彼女の目がネコにそっくりなことから、深澤は彼女を再三呼ぶようになり、お互い親しくなる。のぞみとの関係はさらにギクシャクし、深澤は離婚を申し出るが、のぞみは応じようとしなかった。ちふゆが実家の祖母が病気なのでしばらく休むと聞いた深澤はちふゆについていきたいと申し出る。ちふゆは快く承諾し、二人はちふゆの田舎に行く。

 

深澤は、山と海が隣接するような風景の中でちふゆとのひと時を過ごすが、最後にちふゆは深澤がかつて人気のあった漫画作家であることを知っていたと告白する。そして深澤はちふゆを残して東京へ帰る。東京に帰った深澤はのぞみと協議離婚が成立する。彼の元アシスタントが漫画作家としてデビューするらしいことも聞き、かつての担当編集者も素っ気ない態度を取るようになったのを見ていた深澤は、世の中の人気に併合する作品を描くことを決意、そしてその作品は大人気となって、かつての売れっ子としての地位を取り戻す。

 

サイン会で、かねてからネットで応援してくれたファンもやってきて、今回の作品を褒めるのを聞いて、深澤は、漫画家の真の姿を理解していないと豪語する。担当編集者と街を歩いていると、男性と歩くちふゆとすれ違う。こうして映画は終わっていきます。

 

今のネット社会でもてはやされる様々な世界に苦言を呈したいという雰囲気のメッセージが見え隠れする作品で、原作があるとはいえ、どこか共感している自分が見えます。何度も挿入される夜の海のカットや、一見、気の良さそうに接していた周りの人間の豹変する姿などに毒を散りばめた展開は、ちょっとしたもんですが、映画全体としては普通の仕上がりだった気がします。

 

「テス」

初公開以来の再見。三時間近い文藝ロマンにも関わらず全く退屈しないストーリー展開、ジェフリー・アンスワースの色調を抑えた美しいカメラ、そしてなんといっても抜群に可愛らしいナスターシャ・キンスキーの魅力に引き込まれるさすがの名作でした。監督はロマン・ポランスキー

 

彼方から年頃の少女たちが楽隊に率いられて歩いてくるところにタイトルが被る。少女たちが踊り始め、通りかかった若者の一人エンジェルが加わって少し踊った後去って行く。それを見送るテスの姿から映画は幕を開ける。

 

テスの父ジョンは貧乏で、この日も飲んだくれて歩いていると牧師がジョン卿と呼ぶので、その理由を聞くと、かつてダーバヴィル家という貴族の家系なのだと説明する。近くにダーバヴィル夫人の屋敷があるというので、ジョンたち夫婦は娘のテスに、血筋を訴えてその屋敷で何某かの金と仕事をもらうように頼む。実はダーバヴィル夫人も金で名前を買ったエセ貴族だった。

 

テスが屋敷にやってくると、庭のテントにいた息子のアレックに呼び止められる。テスはこの屋敷で鶏小屋の仕事にありつくがテスを気に入ったアレックは何かにつけてテスに近づき、まだまだ純真だったテスはそれを恋と勘違いして親しくなっていく。まもなくしてテスはアレックに森で犯され、妊娠してしまう。テスは遊ばれたことを悟り、妊娠を隠して実家に逃げ帰る。赤ん坊を産み実家の農場で働くが、まもなくして赤ん坊は死んでしまう。不義の子供として洗礼も受けられなかった赤ん坊をテスは自分で埋める。

 

農場でテスはエンジェルと再会する。テスに惹かれたエンジェルはテスに近づきやがて二人は恋人同士になる。しかしテスには、アレックとの過去が心に引っかかっていた。牧師の息子で、インテリのエンジェルは貴族の没落する姿を目の当たりにしながら、新しい考え方の青年だった。テスは過去を告白する決心をし、手紙に書いてエンジェルの小屋の戸の下に差し込むが、翌朝、なんの変わりもなく接してくるエンジェルの姿にテスは何もかも許されたと勘違いする。まもなくしてエンジェルはテスにプロポーズするが、直後、手紙が絨毯の下に挟まっていて、読まれていないことを知る。

 

結婚式の初夜、エンジェルは過去に年上の女性と関係があったことを告白、それに応えるようにテスもアレックとのことを告白するがエンジェルは許してくれず、テスはしばらく実家に戻る事になる。エンジェルは、ブラジルへ旅立ち、心の整理がついたら迎えに来ると告げる。

 

農場での仕事に戻ったテスの前にアレックが現れる。そして過去の経緯を知ったアレックは、テスの家族の力になりたいと申し出るがテスは断る。ところがまもなくしてジョンが亡くなり、家を出ていかなければならなくなる。路頭に迷うテスの家族は教会の前に家財道具を下ろし、施しを受けようとする。

 

時が経ち、心の整理がついたエンジェルがブラジルから戻ってくる。そしてテスの行方を探すが、元の農場にもいなかった。探し回った末ようやく見つけた家でテスに会うが、遅すぎたと応えるテス。彼女は家族のためにアレックと結婚していた。エンジェルは諦めてその場を去るが、泣き崩れた後テスはアレックを殺してエンジェルを追う。そしてエンジェルの列車に飛び乗り、アレックを殺したことを告白する。

 

エンジェルは、二人で逃げようと言い、北の果てまで逃げる。空き家になった大きな屋敷で二人は体を合わせ、その後ストーンヘンジまで逃げ、そこで一夜を明かすが、警察の追っ手が迫ってきた。諦めたテスはエンジェルに付き添われて警察に連れて行かれる。ストーンヘンジにゆっくりと朝日が昇って映画は終わる。

 

大河ロマンという言葉がピッタシの名作で、この長さでこの話で最後まで退屈しないのは、映画としてのクオリティの高さを証明しているように思います。ナスターシャ・キンスキーの存在感がかなり大きい作品ですが、やはり本物の名作ですね。見直して良かった。