くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「栄光への5000キロ」

栄光への5000キロ

「栄光への5000キロ」
日産サファリラリーチーム監督笠原剛三の原作を元に、日産自動車のバックアップで完成されたラリー映画である。

石原裕次郎のスター映画の色彩が強いが、車に搭載されたカメラの映像を巧みに、効果的に利用したレースシーンの迫力がとにかくすばらしい。まだ女性は男に寄り添うだけで、夢を追い求めるのが男性の世界というまさに日本の高度成長の最終段階の時代の物語である。

その視点で見ると今の映画に比べて女性のなよなよしさがまどろこしくもあるが、徹底した男のドラマとして描ききった蔵原惟繕監督の演出は娯楽映画とはいえ充実した人間ドラマを描いていきます。

ため息のでるような朝焼けをバックにした浜辺のシーン、若者たちが歌い踊る情熱的なシーンから映画は幕を開ける。とにかくフィルムの美しさで、今のデジタル画面では決して再現できない自然の美しさに目を見張る。そしてタイトルの後モンテカルロラリーに参加する主人公五代のレースシーンが迫力満点のカメラで描かれていく。

そのレースでクラッシュし瀕死の重傷を負うが、一命を取り留め、回復の後、日産に呼ばれて日本ラリーに参戦。そこでライバルのピエールと再会、二位に終わる。しかしそのときの実力を認めた日産の専務高瀬がサファリラリーへの出場を依頼して前半が終了。

後半は、全編、サファリラリーの過酷なレースシーンに終始する。前半部でも見せた車に乗せたカメラはもちろん、路肩においたカメラがとらえるあれた道路のショットや車の運転シーンにカチカチという機会音が不気味なほどに緊迫感を生み出し、前半のスピードシーンとはまた違った緊張感が走る。

時折アフリカの美しい自然のショットが挿入される一方ピエールと五代を待つそれぞれの恋人アンナと優子の静かなシーンが挿入され、みるみる高まってくる映像の興奮はまさにこれこそが娯楽大作と呼べる見事なリズム感である。

埃と泥、水、そしてぼろぼろになっていく車の姿、汗にまみれる五代たちと、リアリティ満点に描く蔵原惟繕の演出もさえわたる展開である。

そして、90番でスタートした五代たちはみるみる追い上げ、3番でスタートしトップにたつピエールの車に追いつきクライマックスのデッドヒートへ。しかし、夢に見た不吉な予感どおりピエールは途中で鹿をはねてしまいリタイア、五代たちが優勝し、優子と再会、再び世界の旅にでる。ピエールもクラッシュした車でゴールしアンナと抱き合い、こうして二人のハッピーエンドでエンディングである。

今なぜこれほどの見事な娯楽映画を作れないのか不思議であるが、そのあたりの映画作りのつぼを心得た名監督たちの力のなせる技であろう。少々の難もないわけではないが、ぐいぐいと迫力で押しまくってくる演出でそんな欠点などふきとんでしまう。

フィルムならではの美しい景色、迫力あるシーン展開、ドラマティックな男の生きざま、そして静かに支える女の姿、ある意味古き良き映画の世界かもしれないけれども、現代では決して作れなくなったロマンがあり映画としての貫禄のある一本、先日の「黒部の太陽」同様見事な映画でした。