くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エヴォリューション」「幸せなひとりぼっち」「フィッシュ

kurawan2016-12-19

「エヴォリューション」
ひたすら思わせぶりな展開が続くしんどい映画だった。言いたいことがわかるようでわからないという独りよがりの一本という作品。監督はルシール・アザリロヴィックという人です。

目がさめるほどに美しい水中の景色から映画が始まる。CGのようにも見える映像の後、とある島の風景。そこには少年たちと大人の女性のみが生活をしているようである。主人公の少年ニコルが、海で死体を見たと母である女性に知らせる。

なにやら、この少年は時折母親に薬らしいものを飲ませれ、いかにも気持ちの悪い食べ物を与えられている。なぜか、少年は病気であるかのように、病院に連れていかれ、訳のわからない注射をされ、手術か何かわからない施術を施されたりする。

どうやら、少年のお腹の中に何かを注入し、妊娠させようとしているのかどうか。女の背中には吸盤らしきものが浮かび上がってきていたり、夜中に、全裸の女たちが群れていたり、ニコルの周りの少年たちが次々と死んで行ったり、入院したり。

確かに、謎だらけの展開だがどれも思わせぶりのまま前に進まない。

結局、船に乗ったニコルと母が夜の海に漕ぎ出し、女は海に身を投じ、ニコルは一人残る。彼方に工業地帯らしい、いや都会らしい、夜景が浮かんでエンディング。

つまり、この島の生き物は人類から進化したものなのかどうか。そんな意味ありげな話なのだろうが、とにかく思わせぶりの連続の展開にしんどいだけだった。


「幸せなひとりぼっち」
よくある設定の物語であるが、なかなかうまくまとまっていて綺麗に締めくくられる作品でした。素直に胸が熱くなるという意味では佳作と呼べる一本ですね。監督は ハンネス・ホルムという人です。

主人公は、何かにつけ頑固な爺さん。名前はオーヴェという。今日も自治会の規則を厳格に守らせるべく、地元を巡回していた。半年前に妻を亡くし、その後を追うべく自殺をしようと今日も天井につった縄に首をかけようとしていた。しかし、いざとなるとなにがしかの妨害が入りうまくいかない。導入部はこの自殺未遂と彼に絡んでくる人々の紹介を手際よく描いて行く。

ある日、隣に越してきた夫婦の車が彼の家の郵便受けを壊してしまう。越してきた家族の母バルヴァネはやたら人懐こくオーヴェに接してくる。バルヴァネはオーヴェに車の運転を教えてほしいと頼み、次第にオーヴェは彼女に翻弄されながらも彼女の子供達も含め家族と付き合い始める。

こうしてよくある流れで展開するが、後半に入り、オーヴェの若き日、妻との出会いの切ない日々などが挿入され始め、妊娠した妻と出かけた旅行先でバス事故で子供を亡くし、車椅子に乗った妻を必死で守るオーヴェの姿が描かれて行く。

この物語の配分と構成のバランスが実に上手いので、平凡なハートフルムービーで終わらない。やがて、妻が亡くなりその後を追うべく自殺未遂を始めている現代になり、一方でバルヴァネの家族との付き合いで孤独から解放され立ち直って行くのだが、ある冬の雪の夜、オーヴェは静かにベッドで息をひきとる。この辺りの処理は実に上手い。

それまでに、胸を押さえて倒れる場面などもあるが、そこはさらっと流し、一瞬の間を置いてラストシーンを迎える。それもしんしんと雪が降る絵作りをし、途中で飼うことになった猫を抱いたままベッドで死んでいる。その前に、バルヴァネは出産し、かつて子供のために作ったゆりかごをオーヴェがプレゼントするあたりの小道具の使い方も良い。オーヴェの親友で今は半身不随になった友人が施設に強制的に連れ去れれるのを阻止するエピソードなど、丁寧な作劇も上手い。

よくある話とはいえ、描き方はそれぞれだなと思う一本。小さな住宅街のカットも美しく、映画として出来上がっている作品でした。


「フィッシュマンの涙」
ちょっとキワモノかなと思っていた韓国映画ですが、意外と、メッセージもしっかりした奇妙な映画でした。監督はクォン・オグァンです。

新薬の治験の副作用でなぜか魚人間になった主人公が、やたら騒がれ、一時は有名人でもてはやされるが、次第に実験動物のごとく扱われ始める下りを、細かいカットの切り返しで、現代と過去を挿入し、魚人間の取材をする地方大学出身で蔑まれている一人の記者の目を通して、人間世界の汚れを描いて行くという流れである。

韓国映画なので、所々稚拙な演出やエピソードが見え隠れするのですが、ただのキワモノ作品にせずに、しっかりと一本の筋道に乗って描かれる物語は、ちょっとしたものです。

やがて魚人間は、人間に戻る手段もあるのに拒否し、海に消えて行く。彼を取材していた記者が本当にやりたいことに気がつき、魚人間のドキュメントを取ると、会社を飛び出す。海の中を自由に泳ぎ回る魚人間のカットでエンディング。

せせこましく、ギクシャクした人間社会より、魚人間となって自由に海を泳ぐ方を選んだ一人の若者の物語という感じの一本である。まぁ普通レベルの映画でしたが、ある意味では面白かったかもしれない。